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感情以外の恋に息吹をください
▪今回の表題。
▪if章よりミナギ&小太郎。
▪微裏。切ない。日常。
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突かれる度に耳に落ちる息が、声が、媚薬だ。
刹那の時を駆け抜ける。愛を言葉で囁けないのならと、物理的な繋がりに全てを賭けて、目指すは天国ーーなのに、見えない。届かない。あと一歩、及ばない。愛は痛い程伝わるのに、彼は野獣の如く私を求めてくれるのに……と。
後の戯れまで、彼は愛を囁き、頭を、頬を撫でてくれる。けれど、それが虚しく、物足りなさを煽ってくるのは何故?
そうして、耳に響く豪快な寝息。彼女は今日もまた、遣る瀬ない想いを胸に抱きつつ、睡魔に身を寄せた。
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「消化不良よ」
「はぁ……」
今にも感情が爆発しそうな彼女が、神妙な面持ちで嘆いた。その言葉が最早、お経のようにしか聞こえてない小太郎は、煎餅を片手に寝転がる。
いつもの話。女特有の長ったらしい愚痴。親身に聞くだけ野暮だ。ましてや、相手がミナギならばーーと。
「さっきからつまんなそうねぇ……」
「察してるなら止めろって、馬鹿」
まるで自分に興味ないと言っているかのような素振りに、彼女の顔が歪んだ。
彼はナンパ師。乙女心を充分過ぎる程に理解した上でそれを気遣い、器用に何でもこなす。女と言う生き物に対して、正解しか出さないと言っても過言にならないような男。
だが、その男が何だ? 今は自分に対して間違いだらけの対応じゃないか? 沸々と不満が募り、ミナギの彼を見つめる視線は次第に冷めていくばかりだ。
「ねぇ、小太郎ちゃん。ちゃんと聞いてよぉ」
「もう飽きたって。旦那がヤり下手って話は」
「違くてぇ~っ……もおっ」
彼女にとっては思い立った行動だった。小太郎の傍に行き、背を向けられれば隙有りと言わんばかりに腰に絡み付く。さりげなく、背に御自慢の豊満な胸なんかを擦りつけてみたりもする。
けれどそれでも、小太郎は無反応だ。その冷めた態度が、彼女の胸に針を一本ずつ刺していく。
ーー私はもう、女として見てもらえないのか、と。
「止めてもらえます?」
服を捲し立て、大きい背に口付けを落とす。そんな大胆な行動を以てしても、小太郎の顔色は何一つ変わりはしなかった。針がナイフに変わり、彼女の胸を抉る。昔みたいに戻る事はもう、不可能なの? なんて悲鳴をあげながら、彼にしがみつく。哀れで、惨めで、切なくて、醜いなんて解っていながらも、止まらない。心が制止を求めても、身体が彼を離さない。離したがらない。麻薬のように依存しきっているのだ。
「愛はお腹いっぱいなのぉっ……でも、それでも満たされないのよぉ……」
「へぇ、そう」
「あの人じゃイケないのよぅ~……」
「別にいいんじゃねぇの、それでも」
彼女の涙声にですら、これでもかと言う程の素っ気ない態度。昔の彼は、自分が泣くだけで抱き締めて、添い寝して、
そうしてーー……とことん、自分は落ちぶれたのだと彼女は痛感した。あれが、小太郎なりの優しさで、同情心からの行為だったのは存分に理解している。
だけど、それを忘れられず、未だに引き摺る。思い出すだけで、身体が火照る。心が疼くのじゃなく、辿られた部分ばかりが疼くのだ。
「ねぇ……、小太郎ちゃん?」
「何だよ?」
「女ってね、心以外に子宮でも恋をするんですって」
「あぁ……男も大差ねぇわ、それ。心と身体は別だって話な」
「……私ね、恋してるの。小太郎ちゃんに、」
子宮で。
耳に落とされた声は冷酷さを孕み、切情を生み出した。彼の深い溜め息が滴った瞬間、彼女の口元が緩む。
言葉はなく、振り返った刹那、鷲掴みにされ、引き寄せられる。やっと男を見せてくれたのだ、私は彼にとってまだ女なのだと、彼女は破顔した。
「ふふっ……好きよ、小太郎ちゃん」
「旦那に言えよ、その手の台詞は」
「好き。だ~い好きっ……だ▪か▪ら▪ぁーー」
早く、この恋を満たしなさいな。
首筋に舌を這わせる彼の耳元で、彼女は二日酔いになる程の愛を喘いだのだった。
……END……
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