鷹の悩みを雀は知らず

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鷹の悩みを雀は知らず

▪本編より抜粋。if章中盤。 ▪朝陽×白夜×弥一。 ▪裏。切ない。陰鬱。 ━━━━━━━━━━━ 狂おしい程、淫靡に酔いしれる。    そこに精神的繋がりは皆無。 あるのは肉体的な繋がり、だけ。 でも、いいんだ。私は、それでも。     だって、太陽に手は届かない。私如きの人間では、触れる事は愚か、この手を差し伸ばす事さえ許されない。 穢れを知らない朱色の瞳。恐れを知らない陽光の心。貴方は夜闇を知らない太陽そのもの。 いつも傍に居る。その癖に、見上げる事しか出来ないなんて そんなの、ひたすらに気鬱なだけ。   例えば……私が空を飛ぶ事を忘れて、鳥籠に閉じ込められた雀ならば。 貴方は きっと、毎日、空を自由に飛ぶ幸福だけを伝えに来てくれる鷹。   大きい翼で、いつも颯爽と風を切り、潔い羽音と共に空を自由に飛び回る。その姿は、空を仰ぐ者を存分に魅了する。 そんな貴方は、毎日鳥籠越しの私に、空に在る幸せを沢山教えてくれるんだ。 でも決して、籠から出してはくれない。空への羽ばたき方も、扉の開け方も教えてくれない。 幸せなその癖に、空を自由に飛び回る貴方を眺めているのは、時に憂鬱で仕方がない。 私がそれを嘆いてしまっては、貴方の翼を奪い、壊してしまいそうでーーだから結局、鳴けない。貴方の前で私は鳥の形をした玩具……、欠陥品でしかないの。    そうして空を自由気儘に飛び回る事を恐れ、 挙げ句の果てに忘却した私は、本能の赴くままに飼い主様を求めてしまうんだ。 飼い主様は、私に形しか求めないから。中身は要らない、見せかけだけの私を愛でてくれる。守ろうと……ううん。そんな言い方出来る程、綺麗な感情じゃなくてーーせめて命だけは繋ごうと、鳥籠を頑丈にし、紛い物の愛情を注いでくれる。    でも、そうして空を忘却した私の前に、優しい鷹がひょっこり現れてしまった。そのせいで、私は再び空に想いを馳せるようになってしまった。 “鷹と一緒に空を飛びたい”なんて、そんな風に想う心は日に日に強くなっていく一方でーーけれど、そんなのきっと許されない。 私は鷹みたいに、高く空を飛ぶ事が出来ないから。   同じ鳥と言えど、専門の区分けも違えば、決して交わる事は適わない種同士。 貴方がどんなに優しくしてくれて、一緒に羽ばたいていたとしても、いつかはそれが貴方の負担となってしまう。 私が貴方と一緒に空を舞えば、貴方の豪快なその翼に多量の錘をつけてしまう羽目になる。 最初はそうじゃなかったとしても、いつかはきっと……そんな日が訪れるでしょう?    鵙に速贄にされて、傷つけられた羽はそう簡単に癒えてくれやしなくてーー空がトラウマになった私を、拾って籠に入れてくれたのが飼い主様。傷だらけでも、鳴けなくてもいいんだって。命さえあれば、それだけでいいからって。   だから、いいの。もう、いいの。 外は恐い。空が恐い。 空の上に在るべき幸福なんざ知りたくもない。   鵙に傷つけられた心身は癒すのじゃなく、壊した方が利口なやり口なんだよ。きっと、そう……   飼い主様はね、それをいつも教えてくれるんだ。   心身を崩壊させて、闇の底に突き落として、その上でね、『羽ばたきを忘却した私でも存在意義はあるんだよ』って、そう教えてくれるんだよ。   持つ理性すらも、本能にしようと仕向けてくれる飼い主様。   鷹なんてちっぽけに思える程に、空なんて下らないと思える程に、早く私を青が見えなくなる程の暗い闇底へと突き落として。 飼い主様が可愛がってくれるなら私、一生籠の中でも構わないから。一生、鳥目のままの自分も愛せるから。   籠から出たいなんて、空を自由に飛びたいなんて、鷹と一緒に空を飛んでみたいなんて、そんな風に思う心身を早く塵も残さない程に粉砕してよ。    ねぇ? 飼い主、さま。   
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