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「あんたねぇ……今日はやけに飲むじゃない。やけ酒かしら?」
「うっせ。早く月陽の部屋に行けな」
「こう見えて、馬鹿は放っておけない質なの」
「よく言うわな。ついでに、俺より月陽の方が馬鹿だと思いますけどね」
あれから白夜を自室に送り、眠りにつくまで朝陽は傍に居た。どうやら疲れていたのか、彼女は割と早めに
寝息を立ててくれたので、時間を持て余した彼はこうして晩酌に身を窶しているのだ。
だが、いつもより量が増えている。飲み方も、呑まれたいと言わんばかりに煽るものだから、彼の幼なじみ兼家族である小鞠は警鐘を打ち鳴らしたのだ。
そうして、没収された酒瓶。朝陽は見る見る不貞腐れていく。それを横目に、小鞠は呆れたように深い溜息をつく。
「嫉妬?」
「いきなり核心突いて来るんじゃねぇよ」
「あんたが解りやすいだけよ。白夜ちゃんがあのイケメンや美形のお師匠様に会いに行った日は、飲み方が狂うから」
「はいはい……自覚はしてる。気を付けますよ」
ふふっ、と笑い、朝陽の盃に酒をゆっくりと注ぐ。大人の女性の仕草だ。だが、そこに朝陽の色目が働く事は皆無なのだが。
「実際、本当にお師匠様なのかしらね。あの二人は」
「詮索屋かっての。それ以上でも、それ以下でもないよ。奴等は」
「あら、そうかしら?」
「そうです。それ以外、有り得ねぇだろって……」
そう言い切った朝陽の表情を、小鞠は見逃さなかった。苦笑しつつも、歯痒さを堪えたような顔。険しさばかりが際立ち、目も当てられない。
「ねぇ、朝陽」
「何だよ」
「隠せてないわよ?」
小鞠の迫った視線に、彼は核心を射抜かれ、二の句が継げなかった。そんな朝陽を見、彼女はクスクスと肩を震わす。
「無理に詮索する気はないけど。愚痴位は聞いてあげなくもないわ」
「ああ……そりゃどうも」
解れた緊張。彼は自然体な雰囲気を取り戻し、酒を手に取る。思った以上に女の勘は鋭いもんだなと、物思いに耽りながら。
『俺は小娘の情人(いろ)だ』
『奴は鳥籠の中で飼われ、俺に支配され続けて居なきゃ自身の存在意義も持てぬ至極哀れな小鳥よ。俺に鳴かされる事でしか、艶やかになれない……、淫靡に善がり狂う事でしか、自身が女だと認識出来ない惨めな小娘様って訳だ』
『それでも奪うか? ならば、忠告しといてやる。
奴から俺を取ったらーー』
奴 の 行 き 着 く 先 は 、鬼 の 故 郷 (地獄) よ。
初っぱなからそう断言され、「行くな」なんて台詞は吐けない。かと言って、想う相手が他の男に抱かれるのを解っていながら黙ってなんかいられない。複雑な事情があるのは百も承知。だが、それでもやっぱりーー
「はぁ……」
「いきなり何よ? 早速愚痴かしら?」
「違ぇよ。どちらかと言えば、惚気」
「あら、なぁに? それはそれで面白いじゃない。聞いてあげる」
「いや、お前も知り尽くしてる話って言うか……」
「何よ、歯切れが悪いわね。早く言いなさいな」
「何、俺は自分が思ってる以上に月之宮が好きなんだって……そう思っただけですよ」
あれは好きだから、全てを知っていたからこその朝陽の行動だと、彼女が気付くのはいつの日かーー
To be continued……
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