靡く髪ですら愛おしくて

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靡く髪ですら愛おしくて

▪if章より宗太郎。 ▪陰鬱×裏×胸糞内容。閲覧御注意。 ▪狂気と狂喜。 ▪一人称(宗太郎)。独白に近いものがあるので、雰囲気で読む事をオススメします。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 冷めた夜風に晒され、金色の髪がたおやかに靡いた。理由はそれだけ。たったそれだけで、忘れられない想い人が浮かぶのだから、どうしようもない。 「ねぇねぇ、お姉さん」 「え……、私? 何?」 「こんな所で何してるの? 彼氏待ち?」 「違う違う。旦那と喧嘩しちゃってね。家に居たくなくて……」 在り来たりな台詞。聞き飽きた誘い文句。それでも、乗っかるのだ。顔とか、体型なんてさほどの興味はなくてーーただ、その夜闇でも眩しい程に輝く金色の長い髪が、白夜を彷彿させたから。 「そっかぁ~。それは難儀だね。どう? 暇潰しに愚痴ってみない? 俺聞くよ。お姉さんの話」 「上手なのね、君。こういうの慣れてるの?」 「慣れてはないよ。よくするけど、いつもドキドキしてるの。『嗚呼、俺なんかがこんな美しいお姉さんに声掛けちゃっていいのかな……』って」 「私別に、綺麗でも何でもないけど……」 「そう? この髪、手入れ大変でしょ? すっごく指通り良さそうで、触りたくなっちゃってね……つい、話し掛けちゃいましたぁ~!」 「ふふっ……君はナンパの成功率高そうね?」 「そうだね。さすがに失敗率の方は上げたくないし……お姉さん、協力してくれる?」 「いいわよ。ちょっとだけ、付き合ってあげる」 ちょっとだけ、なんて。笑わせる。お前等塵芥共の“ちょっと”は、実際とんでもない位にスケールがでかくて、面倒臭い事ばかりなのに。 最初は互いに手探りの会話。ひとつ、共通点があればそれを餌に気持ちを盛り上げる。情を高めるような会話をし、脳内で興奮を補完する。前戯となんら変わらない、ただの準備。人心掌握術なんて堅苦しいものは要らない。所詮は塵芥、持ち上げてしまえば主導権なんてものは幾らでも握れるのだ。 そうして気が昂った所で甘露酒を飲ませれば、後はお決まりの流れだ。名前すら知らない女でも、本能は素直に快楽を求める。 女の頭へと伸ばした指先。やっぱり、指通りがよく、撫でていると白夜を思い出す。堪らない…… 「そこじゃなくってぇ……」 細い指が腕をつーっとなぞり、半強引に俺の手を自分の胸へと誘導する。触ってと言わんばかりの蕩けた視線に、妙な苛立ちが生じた。これだから、塵芥共は……解ってない。解ってないよ。俺はこの髪以外、視界に映したくないんだけど? 「嫌だ。俺は髪がいいな」 「宗太郎ってば、髪フェチなのかなぁ?」 俺の手で自慰紛いな事してんじゃねぇよ、このゴミ女。さっさとその手を離せ。 俺は白夜を思い出したいの。刻みたいの。輪郭がぼやけないように、ずっと記憶を辿りたい。それだけなのに、勘違いしやがって。 「あっ……、ちょっとぉ、首はだめっ……、あっ、」 動く度に揺れる髪が、毛先一本一本の感触が、白夜を存分に思い出させてくれる。だけど、声がちょっと豚みたいだから耳障りでーー塞いだ口。そうしたら、舌に貪りつかれて鬱陶しい。 白夜はそんなこと、しなかったのになぁ……やっぱり、塵芥は塵芥でしかないって事ね。 「ねぇ……、」 「何?」 「早く、いれてぇ……」 おーい。何勝手に盛り上がった挙げ句、上等な要求抜かしちゃってんの? 誰がお前を悦ばすなんて言った? 笑わすな。そろそろ自分の役どころを理解しろよ、この醜女。 「えっ……なぁに?」 「さっさと跪けよ、襤褸きれ」 「へっーーきゃっ!!」 女の頭を鷲掴みにし、床にのめり込む程に押し当てる。これ、いい。ゴミのような顔も、細すぎて鶏皮みたいな身体も見ずに済む。髪だけが視界を埋めつくてくれるし、何よりーー 「嗚呼、はち切れそっ……」 指から伝わる髪の感触が、白夜そのもの、だから。 このまま、出してしまおう。この髪に、白夜に、俺を受け入れてもらうんだ。何度だって、吐き出したいんだよ。ねぇ、白夜。白夜好き。大好き。 「痛っ……!! やめなさいよ、この変態っ!」 「うるさいなぁ」 「あ"っ、いだっ……、っ……!」 「白夜が消えちゃう。黙ってな」 「びゃく、や……?」 止まんない。君の優しい愛撫や善がり狂った姿を思い出すだけで、俺壊れちゃう。こんな風に、欲が止まらなくなっちゃうの。 「出ちゃいそう……」 「やめっ……髪はやめて! 汚っ」 汚ねぇのは、いつだってお前等三下共だろ。 果てた後に、突如として襲い掛かる虚無感に舌打ちをする。長い金髪をどろりと伝う液だけが、俺の戦利品。そのオマケでついてる放心した女なんかは、ゴミ以下にしか見えなくて。 「ありがとう~。スッキリした」 「あんたっ……最低! 絶対許さない!! 気持ち悪いのよ! 顔だけじゃないっ……!」 「嗚呼。蝿がうるさい日だなぁ……」 「このクズ男!! 旦那に言うわよ!? 私の旦那はね、ちょっとした喧嘩自慢の男なのっ……あんたのその顔、原型留めない位に殴ってもらうんだから!!」 「ふぅん。じゃあ、」 その髪、燃やしてもいいよね? 白夜と結ばれたあの日。多分、あのまま屋敷を出る選択をしなかったら俺達は焼死体になっていた。 今なら、それも良かったかなって……そう思うんだ。 例え白夜の身体が燃え盛って熱くても、俺は彼女を離さない。塵と化したって、彼女を離さない。 今みたいに、離れ離れになんかさせないから。 「え……、何? 何してるの、あんたっ……」 「人体って最初に燃えるの、髪だから」 「はっ……? ちょ、待って……やめて、やめっーーイヤアァアァアアッ」 嗚呼、この焼け焦げた臭い。ちょっと好き。 俺の白夜に対する心、みたいでーー金色の髪が、赤から黒に染められていく。あれ? 何かこれも白夜みたい。白夜好きだもんね、俺の紅い眼……そして、俺に染められる夜も。 「引き際は弁えろよ、塵芥」 見るも無惨になった髪。掴めば、じゃりっと言う音がして、一気に萎えた。本物(白夜)じゃないから、当たり前か。 「っ……、ぜったい、許さないっ……許さない、許さない、許さな、っ……あぁ……うわああぁっ……!」 「旦那連れてくるの、待ってるね?」 焼け焦げた髪(塵)を空に放り投げれば、靡かなくてーー白夜、もう一度振り返って? その美しい髪を靡かせて、俺に笑いかけてよ。『宗君』って、そう呼んで、俺を求めて? 「髪は女の命だよ、白夜……」 そうしたら、優しくすくってあげるから。君の髪(命)をーーもう一度、さ。 ……END……
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