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私は海を見ている。
階段になった防波堤に腰掛けて。私は、海を見ている。
今朝、職場の最寄りの駅で降りなかった。ただ、何となく。
望んで上京して、望んだ仕事について、それなりに評価もされた。別に居心地は悪くなかった。それでも疲れていたのだと思う。…といよりは惰性な日々と色のない自分に飽きていたのかもしれない。
「なんにもないのが一番。らしいよ。」
たしか、彼はそう言った。
彼。家が近所で、親同士が親しくて、というありふれた幼馴染。
私達はどこか似ていた。海沿いの小さな町の中で、そのつながりとか連帯感といったものの外側にいる、そんな感覚なんかが共通していた。違っていたのは、彼はとてもおだやかな人ということ。物静かで優しくて…だからこそ、あの町の和という圧力に抵抗できない…というかしない人だった。理不尽や不条理の最中にあっても、それがまるで別の誰かの出来事でもあるように微笑んでいる人だった。
私が色のない日常に飽きたように、彼は諦めていたんだと思う。そして、その諦めをより深くしたのは、たぶん私だ。
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