彼の岸

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なんとなく一方的に気まずくて、連絡もほとんどしなくなった。 進学、就職、新しい環境と新しい自分に必死だった。あの町では異端だった私は、東京ではありふれた一人だった。 《そっちにいってもいいかな》 そう、また彼に送る。 半年前のある日、私はある偶然から、彼があの海に消えたことを知った。それもずっと前に。彼が、もういない。もう…いなかった。私は、いない彼のアカウントにメッセージを送るようになった。 防波堤から一歩踏み出す。陽の光を蓄えた砂はまだ温かい。 波打ち際はあの夏と意味を変えた。彼のいないこちらと、彼のいるむこう。向こう…彼岸。彼の岸。 昨日なにかがあった訳じゃない、今朝だってなんとなく降りなかっただけだ。こんなつもりも…本当になかった。ただ、今、この瞬間、彼がいないこと、たぶんそれだけだ。 私は波の境界線を超える。 ―さあ、おいで。 あんなに怖かった海が、もう怖くはない。
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