団子の魂、永劫よしなに。

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団子の魂、永劫よしなに。

「団子屋はまだあるか?」  海岸で竹刀を振っていると、刀を差したお侍に声を掛けられた。 「海沿いの五本松の向かいにあった団子屋なのだが。(それがし)贔屓(ひいき)でな」  すぐに幽霊だと判った。  僕は見える質だから、驚きもしなかった。 「五本松も団子屋も、もうないです」 「そうか、やはりな」とお侍は微笑し、肩を(すく)める。残念そうだ。 「時の流れと共に景色も変わりゆくのだな。この海の形でさえも」 「なんか申し訳ないです」 「そちが気に病む事ではなかろう。致し方ないのだ」 「でも、延々と変わらないものもありますよ」 「ほう、何だ?」 「何かしらの生命が生きてるという事です」 「そうか」  お侍は天を仰いで大笑した。 「そうだと良いな」 「そうだといいですね」 「気を吐け、小僧っ子。生命(いのち)を燃やせ。懸命に生きる者の魂こそ続き、艶々(えんえん)と輝くのだ」  そう言い残して、お侍は消えた。  僕は練習の後、おやつに団子を買って食べた。悦に入り、豪快に。  団子はいつからあるのだろう。  延々と受け継がれたその玉のような食べ物は、なるほど確かに艶々(つやつや)と輝いていた。 【了】
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