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夏の終わりの芒の穂
東京に戻る準備を着々と進めて、家の中も整理整頓。
これでもう思い残す事はない。
縁側に行くと、夏の間だけこの家で俺に懐いてきていたあの子が泣きそうな顔でむくれていた。
「花火やるか? まだ残ってただろ?」
頭を撫でてそう言うと、パッと顔を明るくさせ、子供みたいに蔵へと走っていった。
手持ち花火の先から垂れる火花が、ススキの穂みたいだった。
辺りを静寂と暗闇が包む頃、俺は夜空に祈った。
「ひとりぼっちにさせて寂しがらせるくらいなら、どうかこの子を早く成仏させてあげてくれ」と──。
心が通じ合っていたからなのか、この子も全てを悟って、笑って消えた。
さよならの言葉を、花火の儚い光に代えて。
ぽとりと落ちた火種から、一筋の煙が立ちのぼる。
火薬の残り香。夏の名残。
それは即ち、もうすぐ秋がやってくるということだ。
【終】
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