02

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結局行先を失くした落とし物は、未だ俺の部屋に在る。 佳菜子には事の経緯を伝える事は出来なかった。 それでなくともピリピリしている佳菜子に、捨てても戻って来る落とし物の存在など伝えられるはずがなかった。幸い、クローゼットの奥底に仕舞い込んでしまえば表に出て来る事は無かった。 彼女には“無事、落とし主に返す事が出来た”そう伝えるしかなかった。 ずっとあの子は居る。この部屋の中に。 ただ駆け回っている時もあれば、笑っているだけの時もある。 そして俺と佳菜子をジッと見つめている時もある。そんな時はただ黙ってこちらを見ている。生きている俺達が恨めしいのだろうか。俺はその視線に気付かないフリをして暮らしている。慣れとは怖いものだ。いつしかただ子どもと一緒に暮らしているだけのような感覚になって、この異常を不気味にも感じなくなっていた。 夜中に聞こえる声や物音も慣れてしまえば、特に問題なく過ごせる様になってしまう。佳菜子は相変わらずあの子の存在には気付いていないようだったし、俺さえ気づかないフリをしていれば以前と変わらない日々を送る事が出来た。 時折部屋の中で動き回る影が見えた時は変な声を上げてしまうが、その都度佳菜子には「ゴキブリを見た」と情けない嘘を吐いて誤魔化していた。 案外、このままでも上手く生活していけるのかも知れないな。 そんな事を思い始めていた時だった。ある夜、俺は夢を見た。 俺が取材に行った曰く付きの踏切で佇んでいる、二人の少年の夢を。 夕日が照らす中、少年の一人はガチガチと震える手でパスケースを握り込んで線路傍に座り込んでいた。もう一人の少年はその様子を見て笑いながら叱咤している様子であった。 ゆうき君の記憶なのだろうか。 俺がそう思った瞬間、肌を撫でる風の感触も、漂っているどこかの家庭の料理の匂いだとか、虫の鳴き声だとか。様々なものが急に色づいたようにリアルに感じられた。
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