03

3/3
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
産院の廊下で佳菜子の出産を待つ間、俺は気が気でなくなっていた。立ち合いは出来る気がしなかったから、こうして廊下のベンチに腰掛け、我が子の誕生を待っている。出産が深夜に回りそうであったので、眠気覚ましに缶コーヒーを飲んで気持ちを落ち着かせる。佳菜子が産む子が、楽しみでもあり…そして恐ろしかったのだ。 ゆうき君達の事を忘れていた日々だったが、先日ふと思い出してゆうき君と一緒に死んだ子はどんな子だったのだろうと好奇心で調べた。するとゆうき君と同じクラスの小池(こいけ)(あきら)という名前が記事に載っていて俺は息を呑んだ。アキラ。佳菜子がつけたいと願った名前も彰良(あきら)であった。まさか、俺がずっとゆうき君だと思っていた影は… 考えていると、扉から姿を出した助産師の「産まれましたよ!」の言葉にふらふらと入室した。疲れ切った表情の佳菜子に「お疲れ様、ありがとう」と声を掛けると、産声を上げている我が子を横目で見た。赤ん坊がしっかりグーで握っている小さな手に、一瞬靴紐が握られているのが映り、ふっと掻き消えた。赤子は変わらず泣き声を上げている。 俺はやはり、という気持ちで乾いた笑いを浮かべる。 「アキラ…なんだな」 赤子は一際大きく泣いた。俺にはそれが返事にしか聞こえなかった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!