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「はあ?俺はお前の暇潰しかよ!」
佑は急に怒鳴って、自由になる方の足で、足元のキャスター付き側机を突き上げた。勢いで、軽いLEGOの箱が転がり落ちた。
しまった!
「ゴメン、そんなつもりじゃなくて…」
言葉を言い間違えた!
「お前は将来が決まってて、全てがソコまでの暇潰しなんだろうけど、俺はずっと小さい時から…高校サッカーで有終の美を迎える努力を一生懸命してきたんだよっ!」
愕然とした。
焦りや苛立ちが、本来陽気な佑に酷い言葉を吐かせてる。
私は深呼吸して、箱を拾い元に戻す。
「言い方悪かったゴメン!早く良くなって!諦めないでよ、佑には沢山の選択肢があるんだから…」
私を睨んでいた佑の目つきが、選択肢というキーワードで幾分力を失くした。
親の商売は商店街の子にとって、いずれ直面する問題だ。それが早いか遅いか。
私は高卒で継ぐ事に異論はなかったが、皆より選択肢が限られたのも事実だ。
それに他にも諦める事はあった。
先日大学生のチイ兄が、店の前で彼女らしい人と立ち話をしていたのを見た。
美人で賢そうな感じの…
『チイ兄ちゃんのお嫁さんになる』は、幼い頃から私の密かな夢だった。
でも大分前に、夢から目を醒まさないといけないのも分かっていた。
優等生のチイ兄、
私を妹分としか見ていないチイ兄。
私が肩を落としたのを勘違いした佑が
「ごめん、言い過ぎた。最近悪い事続きで何かイライラしてて…」
ベッドの上で謝る。
「とにかく早く良くなって!」
私はそう言い置き、病室を出た。
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