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≪佑≫
イライラしてたとはいえ、麗に言い過ぎた。
甘えたのだと思う。
高校も違い、接点が少なくなった彼女に。
三年生が引退して、俺達二年生がこれからチームを作ってくこの時期。
次期キャプテン候補だった俺の怪我で、急遽メンバーや役割が変更になり、部内は大わらわだ。
俺への見舞いは最初だけ、皆練習や試合で忙しい。
今夏は家庭内でも変化があった。
俺達には何の前置きもなく、同居していた長兄の恋人が出ていったのだ。それ以来、次兄は家に寄り付かない。
仕事で忙しい長兄の代わりに、多岐にわたってサポートしていた彼女。
彼女なら俺の怪我を一番に心配し、入院中も面倒を看てくれたであろう。
姉みたいな人の不在は、俺達兄妹に波紋を呼んだ。
だから今、入り用な物は双子の妹、綾香が病院まで持って来てくれてる。
足元に置かれた玩具に目をやる。
男子高校生にLEGOって。
自由な方の足を使い引き寄せた。細かいパーツで大人向けの仕上がり図が上面に載ってる。
麗なりの気遣いだと分かる。
サッカーを早くやりたい、しかし治療が肝心。だから俺が焦らない様、好きなサッカー雑誌とかじゃなかったのだ。
でもLEGOって。
思わず笑みが漏れた。
退院後、俺は入院してた病院から駅前の整形外科の方に、リハビリを変えた。スポーツ専門で評判が良かったのだ。
そこの待合室に麗がいた。
高校でボート部に入ったものの、久し振りに長距離を走る機会があり、その際不覚にも痛めてしまったのだと。
「何で言わなかった?」
と問うと
「だって佑程ひどくないし、第一格好悪いじゃん。元陸上部なのに」
と彼女は明後日の方を向いた。
そう、昔から彼女は人の世話を焼くクセに、自分自身の大事な事は話さない。それを指摘したら
「悩みとか特に無いなぁ。無いから言い様がないよ」
と笑う。
無い筈が、無い。
だって彼女がどんな声で、智生先輩の事を熱く語っていたか俺は知ってる。幼馴染み以上の感情が駄々もれていた。
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