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「寛太がゲームするなんて珍しいね」
彼の席に近づき声を掛けた。
「…そう?」
顔をチラッと上げただけで、またゲームをする寛太。その雰囲気がゲームがしたくて、してる感じでは無かった。
私は彼の向かいに座り、
「マスター!アイスティー」
カウンターの中にいるマスターに注文した。
商店街の人は落ち着きたい時、ここを利用する。誰でも一回は来た事がある店。
だからここで姦しい話をするのは厳禁、テーブルゲームも消音設定だ。
「…何か悩んでる?」
私は肘をついた両手に顎をのせ、ゲーム画面に視線を落とす。
「うん。進路の事」
案外、寛太はすんなり白状した。彼は有名大学の附属高校に通っていた。
「成績ヤバイの?」
両手をカチャカチャと気忙しく動かしながら、
「それは平気」
淡々と答える彼。
「じゃ何?行き先迷ってるの?」
「うん。父さんと意見が合わない」
「ああ…」
寛太のお父さんは遣り手だ。近隣の給食センターにも野菜を卸し、小売りの方も活況だ。更にうちの父とタメ張る位の熱血だ。
私はマスターが持って来てくれたアイスティーにストローを挿しながら
「寛太はどこ行きたいの?」
「農学系行きたい」
「おじさんは?」
「経営学科」
さもありん。おじさんは野菜やその加工品をネット通販して、今以上手広くやりたいって、商店街の会合で息巻いてたって父が言ってた。
「農学って、生産者になりたいの?」
動植物好きが高じて、そっちの道?
「いや、生産じゃない」
そこで寛太は、ようやく顔を上げた。
おじさんが言う様にネット販売するににしても、野菜の事をもっと良く知りたいと彼は話す。しかしおじさんは聞く耳持たないと。
寛太ん家のおじさん、酒豪だからなぁ。
毎晩晩酌するもんだから、チイ兄んとこの菊池酒商店からまとめて何度か購入し、月末精算してる位だ。
酔っぱらったおじさんは無敵だ、寛太が敵う相手ではない。
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