過去

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それに比べ、俺の恋愛は順調。 大学から交際してる彼女と日中デートした後、体を重ねたい時お互い自宅生なので、専らラブホを利用している。 一度、彼女が『智生んとこの商店街って有名よね』と言って、うちの店の前まで来た時があった。商店街の噂好きに見られたらと、ヒヤヒヤした。 幸い誰にも見つからなかったが、気のせいか高野豆腐店の奥から視線を感じた。 中学生の時は店番程度だった。 大学生になり運転免許を取ってからは、配達等ガッツリ手伝い、達郎伯父さんからバイト代を貰った。 酒が飲める様になったら味わいも覚え、世界中の酒の種類、産地、製法など様々な情報を学んだ。 ラベルのデザインが秀逸な酒。 知名度はないけど、風味豊かな酒 なかなか市場に出回らないレアな酒。 そんな酒達をもっと世に知らしめたいと思った。『世界中の酒蔵を飛び回りたい!』という意欲は、貿易商社で働きたいと思うキッカケになった。 俺は就職活動を始めるにあたって、伯父に相談した。 伯父さん達夫婦には子供がいない。 いずれ、菊池酒商店をどうするかは議題になる筈だ。幼少の頃より母子(おやこ)してお世話になった身では、伯父さんの意向は無下には出来ない。 店の将来とか伯父さんの心積もりを聞いておきたかった。それ如何によって、俺自身の将来も変わってくる。 返答は『店の事は心配するな』だった。 『酒が世界に目を向ける始点になった事は嬉しい。気兼ねなく智生の好きな道を行け』と。 伯父の言葉に力を得、商社や酒を取り扱う企業を総浚いし、今の会社に入社した。 ただ伯父に相談した時、同席した伯母が顔をしかめたのが、唯一気になった。
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