三人

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私は、父や商店街のおじちゃん達がチイ兄を可愛がる理由は、今一つあると思う。 チイ兄のお母さん、園田智美さんが昔皆のアイドルだった為だ。 菊池酒商店は智美おばさんの実家。 今は、お兄さんの菊池達郎さん夫婦が切り盛りしている。 智美おばさんは体が弱く、チイ兄が赤ん坊の頃、店舗2階の住居に戻って来ていた。 以来、旦那さんと別居している。 達郎おじさんと真樹おばさんの間には子どもが居なかったので、チイ兄は我が子の様に育てられた。 チイ兄のお父さん、園田のおじさんは忙しい仕事の合間を縫って、たまに来る。 店先に大きな男物の傘が来た。 「いらっしゃいませ!」 気配で振り替えると 「よっ!麗ちゃん売れてる?」 「あ、チイ兄!ん~雨だからボチボチかな」 「厚揚げ5つ。ある?」 「好きだねぇ~コレ」 「だって麗ちゃんとこの厚揚げ、マジ美味いもん!一つは生姜醤油で、一つは塩で…」 「はいはい」 チイ兄は大豆ミートを提案した当事者なのに、昔ながらの商品の方が好きだ。 難関大学に入学し、一流商社に入ったチイ兄。 今は在宅勤務が続き、以前みたいに世界を股にかける状態ではない。 通りに面した店舗上のチイちゃんの部屋に、夜遅くまで明かりが点いてる。 ネットに国境はないし、何時でも繋がれるが、在宅でそれをしていると、階下で酒瓶の運搬に汗水垂らす達郎おじさん達に申し訳ない気がすると、先日久し振りに飲み交わした時チイ兄が溢した。 憧れの人の弱音に私は、 「だって達郎おじさんが、継がなくて良いって言ったんでしょ?」 と励ました。 チイ兄が就活する際、店を含め先々の事を伯父さんに相談したという。 すると頭が良く将来有望な甥を、一商店街の一店舗に縛りつけたくないと、達郎おじさんから断ったらしい。 『気持ちは嬉しいが、智生の好きな道を行って欲しい』と。
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