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≪麗≫
あ、今日も来ている。
店終いの片付けをしながら、商店街の入り口付近に目をやると、スマホを弄りながら立っているチイ兄の腹違いのお兄さんがいた。
私が彼の名、津久井幹だと教えて貰ったのは本人からだった。
彼に初めて会ったのは、私が小6の頃。
私が店番してるチイ兄と一緒にいた時、津久井幹と彼の母が菊池酒商店に来た。チイ兄のお母さん、智美おばさんを訪ねて来たのだ。
うちの商店街に居そうにない、垢抜けた感じの二人。
智美おばさんを訪ねて来る人が、チイ兄のお父さん、園田のおじさん以外にいる事自体珍しかったので、記憶が鮮明に残っている。
髪の毛の色が違うだけで幹さんは、その当時中学生だったチイ兄と体格も似てて、目元の雰囲気とか天パ気味の髪質とか、2人は酷似していた。
私は彼等をもっと観察していたく、聞きたい事もあった。だが子ども心にも、はしゃげない空気を感じ取ったので、急いで智美おばさんを探しに出たのだ。
その時、智美おばさんとあの母子にどんな話し合いがあったのか、チイ兄ん家はチイ兄筆頭に詳しく話してはくれなかった。
だけど、いつもは月に一回来るか来ないかの、超・忙しい園田おじさんが頻繁に来訪する様になった事が、チイ兄ん家の異常事態を現してた。
その後チイ兄が部活で多忙だった頃、菊池酒商店を見上げる幹さんを何度か見た。
私はたまりかねて話しかけた。
「チイ兄は居ませんよ。今週末は部活の大会です」
「?、チイ?」
「あ!すみません!園田智生君の事です」
「ああ。成る程」
幹さんは呟き、合点がいった様に笑った。
そして少し意地悪そうな顔をして、
「俺、津久井幹が会いに来たって、他の人には内緒で今度チイに教えて。頼むね、豆腐屋のお嬢ちゃん」
思春期を迎えてた私は、『お嬢ちゃん』なんて軽く見られた言い方にカチンときたが、頷いた。
そんな具合に彼と面識が出来た。
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