32人が本棚に入れています
本棚に追加
未来
親父から芸能事務所を引き継いで、俺なりの運営が軌道に乗るまで、試行錯誤の連続。
今まで自分がいた世界と勝手が違う。
業界独自のルールや縛りに翻弄された数年だった。
それを助けてくれたのは、二歳年上の俺の腹違いの兄だった。
両親から俺に腹違いの兄がいると聞いた時は、目が飛び出る程驚いた。
父が母以外の女性ともうけた子ども。
2人が最初、菊池酒商店に来た時覚えた胸騒ぎは、今でも忘れない。
当時兄は染めた髪以外、吃驚する位俺と似通っていた。
兄の存在を知らなかったのは両親も同じで、余りの寝耳に水さ加減に、園田家と達郎伯父さん夫婦は右往左往した。
結果的には兄の意向で、現状のまま過ごそうという事に落ち着いた。
兄の母は変わった女性らしいが、俺が会ったのは最初の一度きりだ。
兄、津久井幹は高校卒業後ヘア&メイクの専門学校に通いながら、父の事務所に入り浸っていた。
父は、今更戸籍を変えたくないという津久井親子の主張に頭が上がらなかった様で、兄を好きにさせていた。
兄の母、津久井清良さんは、代々女主人が治める花柳界の家系だ。
幼少よりそんな環境で育ってきた兄は、歳より大人びていた。
ただ兄の悪い癖で、言わなくても良い事を時々洩らす。なので周りとよく揉める。
それ以外、兄が持つ新人を発掘する時の人を見る目や、所属芸能人の適材適所を瞬時に把握するスキルは、父にとって頼もしい後継者の要素だった。
なのに数年前、父から俺に事務所の代表の話が回ってきた。
兄が商品である所属芸能人と数人、立て続けに寝たせいだ。
兄に反省を促しても、本人は悪いと思ってない。『えっ?何で~あの女も、あの男も綺麗に色気が出たじゃない!?何が悪いの?』
出会った頃には普通だった喋り方が、その頃にはすっかりおネエ言葉になっていた。兄曰く、色々都合が良いと。
枕営業は父の信条に反する事柄。
外部との情事ではないにしろ、兄は後継者の資格を失った。
俺と兄が決定的に違う点は、そういった性に対する考え方だろう。
それは、どんなに諸々相談し仲良い兄弟であっても、母が違うという事を強く俺に意識付けた。
最初のコメントを投稿しよう!