32人が本棚に入れています
本棚に追加
俺にとって兄は、自分の中の迷い、弱さ、黒い部分を吐き出し、相談できる相手だった。周りから期待の目で見られ、自然と優等生路線を歩んできた俺には有難い存在。
だけど性に関しては、アテに出来ない。
もしあの時、兄のモットー『来るモノ拒まず、去るモノは追わず』通り行動していたら、大切な年下の友人2人を永遠に失ってしまっただろう。
あの時、俺も麗も落ちていた。
俺は伯父夫婦に、会社を退職し、父の事業に携わろうと思っている旨を伝えた。
突然、真樹伯母さんが激昂した。
まさか伯母から反対されるとは思っていなかったので、俺は泡を食った。
伯母さんは、
『智生はもっとお酒に触れたい、世界の酒蔵を日本に広めたいって、今の会社に入ったのよね?!将来うちを継いでくれる為の修行だと思っていたわ!私は…私は貴方を我が子の様に思ってて…今更、園田さんの事務所に行くなんてっ!!』
そう言って泣き崩れた。
初めて聞く真樹伯母さんの胸の内に、俺は言葉を失った。
母は兄の存在が発覚してから、父の側に戻っていた。なので伯母さんが何かと、俺の身の回りを見てくれていた。
俺が両親と一緒に住まなかったのは、新婚夫婦みたいに仲の良い両親の邪魔をしたくなかったのと、何より愛着のあるこの商店街から離れたくなかったから。
『…お父さんの事務所に通うなら、ここからじゃ遠いわね…出て行きなさい』
落ち着きを取り戻した伯母さんに、冷静な声でそう言われると心が折れた。
麗は麗で、結婚前提で佑と交際し始めたものの、想像以上の遠距離に挫けそうになっていた。
佑とは麗が寛太と別れて以降、再び友人として付き合ってきた仲らしい。
それが恋人にレベルアップしたものの、一緒に過ごす時間がなすぎる現実。
だからこそ佑は、結婚前提としたのだろう。しかし、そうなると高野豆腐店の後継問題が絡んでくる。
甘い雰囲気になるどころか、悩ましい事案の累積に、麗はまいっていた。
そんな状況下の2人が酒を飲んだ。
最初のコメントを投稿しよう!