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店に立つ時三角巾に隠れてる髪が、今は艶めいてる。
襟足が整ったショートヘアのせいで、細長い項が綺麗に見える。
彼女の顔がほんのり上気して見えるのは、酒のせいか?
照明のせいか?
いつぞやの晩を思い出してるせいか…
店内には賑やかなBGMが流れてるのに、ここのテーブルだけ濃厚な空気に包まれてる様で、ドキドキする。
…相手は麗だぞ。
咳払いをし、麗の目前で指を鳴らす。
ハッとした様子で、現在に戻ってくる彼女。
「あ、ごめん。ぼっーとしちゃった。飲み過ぎたかな」
麗はバツが悪そうに両頬を叩き、水を飲む。俺もグラスに残っていた酒を一気に飲む。
「そういう、チイ兄は?好きな人いる?」
気を取り直した彼女は、興味津々の表情で俺を覗き込んでくる。
「…いや、居ない」
学生時代から付き合ってた彼女と別れてからは、関心を持てる相手がいなかった。
入社からさほど立たないうちに、あの厄災が始まりテレワークに移行した。会社の同期、同僚と個人的な関係を作る間もなかった。
「そっか…その、チイ兄は…」
麗は何かを切り出しにくそうに、言いよどむ。
「何?」
俺は卓上に残ってたおつまみを口に入れる。
「えっと、シタくならない?」
「?」
麗に何を言われたか一瞬分からなかった。箸が止まる。内容を理解した途端、俺は顔に血がのぼり、
「お、お前、何言ってんの!?自分がフ、フラストレーション溜まってるからって!」
しどろもどろになる。
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