未来

4/11
前へ
/32ページ
次へ
店に立つ時三角巾に隠れてる髪が、今は艶めいてる。 襟足が整ったショートヘアのせいで、細長い項が綺麗に見える。 彼女の顔がほんのり上気して見えるのは、酒のせいか? 照明のせいか? いつぞやの晩を思い出してるせいか… 店内には賑やかなBGMが流れてるのに、ここのテーブルだけ濃厚な空気に包まれてる様で、ドキドキする。 …相手は麗だぞ。 咳払いをし、麗の目前で指を鳴らす。 ハッとした様子で、現在に戻ってくる彼女。 「あ、ごめん。ぼっーとしちゃった。飲み過ぎたかな」 麗はバツが悪そうに両頬を叩き、水を飲む。俺もグラスに残っていた酒を一気に飲む。 「そういう、チイ兄は?好きな人いる?」 気を取り直した彼女は、興味津々の表情で俺を覗き込んでくる。 「…いや、居ない」 学生時代から付き合ってた彼女と別れてからは、関心を持てる相手がいなかった。 入社からさほど立たないうちに、あの厄災が始まりテレワークに移行した。会社の同期、同僚と個人的な関係を作る間もなかった。 「そっか…その、チイ兄は…」 麗は何かを切り出しにくそうに、言いよどむ。 「何?」 俺は卓上に残ってたおつまみを口に入れる。 「えっと、シタくならない?」 「?」 麗に何を言われたか一瞬分からなかった。箸が止まる。内容を理解した途端、俺は顔に血がのぼり、 「お、お前、何言ってんの!?自分がフ、フラストレーション溜まってるからって!」 しどろもどろになる。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加