32人が本棚に入れています
本棚に追加
「別れたよ」
「よっ!お待たせ」
チイ兄と佑の声が重なった。
話に夢中で、佑が店に入って来たのに気付かなかった。
チイ兄の両肩に手を置いたまま佑は、
「誰と誰が別れたって?」
「チイ兄、彼女と別れたんだって」
佑がコートを脱ぎ
「ああ、あの彼女?」
私の隣に座りながら、
「生1つ」
と注文した。
「えっ佑も、会った事あるの?」
「俺の最後の試合、2人で応援に来てくれたんだよ」
「ああ…私が簿記の試験で行けなかった時の試合?」
「そう」
そこにチイ兄が
「っていうか、大分前に別れてたから」
私達2人に割って入る。
「いつ?」
私が前のめりに身を乗り出すと、
「社会人になって一年目位かな」
チイ兄は、落ち着けとばかり両手を動かした。
「美人だったのに?」
枝豆に手を伸ばしながら、佑が言う。
「ん~お互い、会う時間がなかなか取れなくなったのと、早く結婚したい人だったんだよね、彼女」
「すれば良かったじゃん」
佑が平然と茶々を入れる。
佑のやつ!
その時ビールが来て、私は乾杯の音頭をとった。
「はぁウマイ!」
美味しそうに喉を鳴らす佑から、早速情報収集をする。
「綾香ちゃんの相手どうだった?」
「俺らより一つ年下、同中出身」
「マジ?近所?私、知ってるかな?」
佑は首を振り
「多分知らないと思うよ。本人、不登校だったって言ってたから」
「ふーん」
そう言えば綾香ちゃんは昔から、好みがマイ基準の人だった。
「佑、今夜はこっちに泊まるのか?」
チイ兄が尋ねる。
「いや、帰るわ」
佑はチラッと私を横目で見て続ける。
「母親のマンションは居づらいし、兄貴んとこは落ち着かないから」
私は少し顔を赤らめながら、チビチビとおかわりしたビールを飲んだ。
「さっきの話に戻るけど、チイ兄は結婚考えないの?」
メニューを見ながら佑が話題をぶり返す。
「んーまだ早いって思っちゃうんだよね。社会人になってやりたい事もやりきれてないし」
チイ兄が店員を呼び
「好きな人と遠距離だったり、忙しくて会えないなら、籍を入れるのも手だと思うけどね」
佑が料理を注文する。
最初のコメントを投稿しよう!