逆襲

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「自分の意思を貫くために廃墟でしばらく過ごしてた子ですよ?かびと埃臭くて身体が痒くなって…私にはとてもじゃないけどいられなかった場所です。そんなところで辛抱強くご両親が自分の想いに気付いてくれるのを待ってたんです。これほど意志の強い高校生はその辺にはいませんよ。一緒に計画を立ててくれる仲間だってそうそういない。正直言って…その意思があれば何でもできそうですけどね」 「しかし、今までなかった託児施設を会社に作るってことですよね?そんな…ここだけの会話で決めてもいいんですか?」 「逆にどこで話せば納得できます?どういう会話ならみんなの同意を得られます?今、ここにこういう悩みで困っている人がいるってことは、同じような悩みで困っている人も少なからずいるはずです。なら、やってみるしかないじゃないですか。ただ頭の中で考えるだけならだれでもできるんです。実行するかどうかの問題なんですよ」 葉月が言うと、ひなこの父親にはその言葉の意味が伝わったようだ。 「確かに…考えるだけならだれでもできますよね。私たちは実行する前から諦めてました」 そう言った後、父親は母親を見て、「産ませてやらないか?」と、訊いた。 「あなた……」呆れたような口調で母が言う。 「託児所が必要なら私も調べる。もしかしたら空きがあるかもしれないし、別に保育士さんじゃなくても子どもの面倒を見てくれる人なら誰でもいいじゃないか。人の手を借りて何が悪いんだ?ひなこが苦労してでもそうしたいって言っているんだ」 ひなこの母親はしばらく頭を抱えて悩んだ後、「負けたわ」と、苦笑いを浮かべた。 「だけど約束して。これから先どんなに苦労することになっても、子どもを産んだことを後悔しないで。その気持ちはきっと子どもにも伝わってしまうから。私は産まれてくる子どもにそんな肩身の狭い思いはさせたくないわ」 母親が言うと、ひなこは涙を流しながら笑い大きく頷いた。 しかし困ったな…と苦笑いを浮かべたのは葉月だ。まさかこの話し合いで託児施設を作る流れなってしまった。そんな簡単に事が進むのか、葉月にはいまいちよく分からない。条件や必要な書類などを用意しなくてはいけないし、そもそも現状子育て世代が会社にはいないのだ。会社は日々大きくなっていくものの、苦労は絶えず付きまとう。 葉月はホッとした安堵のため息と同時に、今後の不安も一緒に吐き出した。
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