夜の住人

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夜の住人

 僕の仕事はいわゆるイラストレーター。  とはいえ、神絵師なんて呼ばれるレベルじゃない。投稿サイトで何万viewや、SNSで何万いいねなんてもらえない。  ただ細々と絵を描いて、契約している会社に納品して、原稿料をもらえるだけのフリーのイラストレーター。  『そこそこ見られる絵が描ける』以外、僕に特技はない。  運動も勉強も、全部苦手。人並み以下。  おまけに人付き合いが苦手。コミュニケーション能力が低い。  社会性がないと言ってしまえばわかりやすいだろうか。  一時期流行った「俺、アスペだからw」という自虐をそのまま反映したような性質であるけれど、本当にアスペルガーかどうかの診断なんか受けたことはない。  知りたくもないのだ。自分が本当に社会能力がないなんてこと。事実は変わらないのだから。  だから僕は引きこもった。  一人暮らしのアパートに。六畳一間の小さな部屋に。  ただ、ニートになれるほどの財産はないから、なにかしら働かなければ生きていけない。  いくら贅沢などしなくて、外出も最小限の身だとしても、生きていれば食べなければいけない。服もたまには買わなければならない。ある程度のお金は必要だ。  よって、なにかしらで稼がなければならない僕は、唯一の『できること』である絵を切り売りすることにしたのである。  これは幸い、割と成功したほうだ。  少なくとも食べるのには困らないくらいのお金がもらえる、まぁまぁの契約先を見つけることができた。  パソコンに向かってペンタブのペンを走らせて、仕事のイラストを描く。  空いた時間には趣味のネトゲやアプリゲーをする。  そんな生活。  外の世界なんて必要ない。  むしろ出たくないし、それどころか見たくもない。目に入れたくない。  引きこもりをはじめた僕は、そのうち部屋を真っ暗にしてしまった。  小さな窓に遮光カーテンをかけて。  日光を完全に閉ざして。  そんなわけで、僕の時間はいつでも夜だ。
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