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次の数日後に窓を開けたときは、ぎょっとした。
何故なら、ベランダの手すりにちょこんと座っていたのだから。
今度は気まずくなる、では済まなかった。だって、手を伸ばせば届くかもしれないところにいるのである。
別に動物嫌いではないけれど、慣れていない。
黒猫のほうは違うのだろうか。人馴れしているのだろうか。
そうでなければこんなところへ来たりしないだろうが。
数秒、ためらった。この中で洗濯物を取り込んで、突っ込んでこられたらどうしよう。
可能性は、なくもない。なにしろ距離も遮るものもないのだから。
ためらったけれど、その間に猫が不意に口を開いた。
にゃぁ、と小さな声で鳴く。僕はびくりとしてしまった。
僕に向かって鳴いたのか。視線がこちらに向いているからきっとそうなのだろうけれど。
まるで話しかけられたように感じてしまって、僕は一歩あとずさった。
もう迷いは消えた。今日の洗濯物は諦めることにした。
がららっと窓を強めに引いて閉めて、シャッとカーテンも勢いよく閉めた。
僕は元通り、夜の世界に戻ってきた。はぁ、とため息をつく。
一体、なんだっていうんだ。
僕に興味でもあるのか。特に面白いこともないだろうに。
僕はすごすごと部屋の奥へ戻った。洗濯物はもう少し時間が経ってから取り込むことにした。冷えてしまうだろうが、仕方がない。
なんだか先程の高い鳴き声と、僕を見つめていた金色の瞳。そればかりを何度も思い出してしまった。
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