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数日後。
今度はぎょっとするより前に、コトは起こった。
こんこんっと窓が音を立てたのだから。
時刻は夕方に差し掛かっていた。僕はそのとき仕事をしていたのだけど、心臓が飛び出すかと思うほど驚き、ペンタブのペンを落っことしそうになった。
なんだ、なにか当たったというのか。なにか飛んできたのか。
だがそれは違ったようだ。こんこんっと、もう一度、音がする。
誰か、もしくはなにかがいるのだ。
ここは二階だから人間ではないだろう。いるとしたら泥棒かなにかに決まっているし、そうであればご丁寧に窓を叩いたりするものか。
それなら……。
緊張に胸をバクバクさせながら、僕は思い出した。
ここしばらく僕が洗濯物を取り込むときに居る、黒猫のこと。
あれ、だろうか。
思えばその通りのような気がした。
音は小さく、窓の下のほうから聞こえてきていたのだから、動物が叩いていてもおかしくない。
だが、どうして、なんで。
でも無視もできない。確かめなければ。
よって僕はペンを置き、そろそろ窓へ近付いた。ごくっと唾を飲んでから、ゆっくりカーテンを開ける。
そこにいたのは果たして、あの猫であった。僕の動揺など知るものかとばかりに窓の前に座っていた。
僕が顔を見せたので満足したのか、また口が開いた。窓越しなので聞こえなかったけれど、また、にゃぁと鳴いたのだろう。
僕は、しっしっと手を振ってみた。ここに居られても困る。
別に害はないけれど、窓を叩かれては気が落ち着かない。
でも猫は動かない。ちょっと首をかしげた。どうして追い払われるのか、という様子ですらあった。
こっちこそ聞きたいよ、と僕は思った。どうして押しかけられるのか。
僕と猫はしばらく攻防した。僕は手を振り、追い払おうとし、向こうは居座る。
でも結局、屈したのは僕であった。カーテンに手をかけ、閉めてしまった。
また叩かれるだろうか、と思ったけれど、幸いそれはなかった。いつまでそこにいたのかわからない。
一時間ほどあとに、確かめるために少しだけカーテンを開けて覗いたベランダ。
そのときにはもういなかった。僕はほっとしたものだ。
窓の外は夕方も過ぎ、ゆっくり夜に移り変わろうとしていた。
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