<4・ごめんなさい>

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 何でも、あの黒い風船が割れてしまうと、中から真っ黒な霧が溢れ出してきてしまうというのだ。それを吸うと、住人はみんなパニックになってしまうのだという。 「その黒い霧って、なんなの?」  カラフルな風船が、幸せな気持ちを閉じ込めたものならば。あの黒い風船は、もしや。 「みんなの、マイナスの感情の塊、とか?……カラフルな風船と、明らかに雰囲気が真逆だものね。でも、なんで神様はそんな風船を作ったの?みんなを幸せにしたいなら、カラフルな風船だけ浮かべておけばいいはずなのに。あの風船が傍にあると、みんながハッピーな気持ちになってくれるんでしょ?」 「そう、なんだけどねぇ。実は、カラフルな風船は神様が作ったものだけど、黒い風船はそうじゃないの」 「え」 「あれはね」  彼女は防護服を着た僕の背中や足腰に隙間がないことをしっかりチェックすると、暗い声で告げた。 「あれはね。みんなが、無意識に作ってしまう産物なんだよ」  ふわりは教えてくれた。この世界に来る住人達はみんな、多かれ少なかれ寂しい気持ちや怒りや悲しみを抱えてやってくることになる。そんな住人達を癒すために、このユートピアを神様が作ってくれ、その中に幸せな気持ちをたくさん詰め込んだ風船を浮かべることで、人々の闇を吹き飛ばし続けてきたのだが。  楽しい時間を過ごしても、元々あった暗い感情を完全になくすのは容易なことではない。  住民達が捨てようとしたネガティブなものは次第により集まり、塊になって、黒い風船を形成してしまうのだという。黒い風船は暗い気持ちしか詰まっていないので、軽やかに宙に浮かぶことができない。冷たく、じっとりと重たく道路に転がるばかり。進路妨害にもなるし、何より割ると中の冷たい感情が一気にガスのように吹き出して、人々の心を汚染してしまう。  だから、なるべく黒い風船は、割れてしまう事故が起きる前に“警察”の方で回収する手はずになっているのだが。このユートピアに吸い寄せられてくる住人がどんどん増えていっている影響で人々が住むエリアは広がり続けており、黒い風船も比例して増えていってしまっているため全く回収が追いついていないのだそうだ。
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