<1・はじめまして>

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<1・はじめまして>

 ベッドの中で丸くなって、嗚咽を漏らしたことは覚えている。何で、どうして。そんな言葉を繰り返し、繰り返し唱えたことも。 ――お母さん、どこ。どうして、帰ってこないの。  父や姉、兄達は傍にいてくれる。でも一番大好きなお母さんが家に帰ってこなくなってから、もう一週間が過ぎてしまった。  不安で胸が押しつぶされそうになる。寒い中、かつての“お母さん”に置き去りにされた記憶が蘇ってくるのだ。あんなに優しく背中を撫でてくれたのに。名前を呼んで、大好きだと言ってくれたのに――あの人は、自分を捨てた。今の新しいお母さんは、もうそんなことはしないと信じていたのに。  自分のことが、嫌いになったのだろうか。  お母さんが何かを話しかけていたのを、ちょっとしたことで機嫌を悪くしてそっぽ向いたからいけなかったのだろうか。  だから、自分はやっぱり悪い子で、要らない子だということになって――お母さんも僕を捨てていくことを決意したのだろうか。 ――嫌だ。嫌だよ。そんなの嫌だよ。あったかいベッドがあっても、ごはんがあっても、他の誰かがいてくれても……お母さんが傍にいてくれないなんて、嫌だ。  泣きながら真っ暗な闇の中に沈んでいって、気づいたら眠ってしまっていたのだろう。けれど、僕が覚えているのはそこまでだった。  起きて、と。鈴が鳴るような優しい声で呼びかけられて、僕は目を覚ますことになるのである。 「起きて、リオ。みんなが、君を待ってるよ。大丈夫、此処には、怖いものなんて何もないから……」  はっとして目を見開いた僕は、あまりの眩しさに唖然とすることになるのだ。  そこは、ふわふわのベッドのように柔らかいピンクの床に、いくつもの丸い風船が浮いていて、金色の空が広がっている――そんな不思議な空間であったのだから。
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