<3・こんにちは>

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「この子はリオ!ついさっき、“狭間の道”で目覚めたばっかりの子なの。この世界のことはほとんど何も知らないから、みんな一つずつ教えてあげると嬉しいんだねぇ。ちなみにこの子は日本の出身だよ。みんな、元の種族も元の国も違うから、話してみると楽しいと思うよ。元の文化についてもこの世界の楽しいことについても、じゃんじゃん訊いてねリオ!」 「う、うん」  後半は、僕に向かって言われた言葉だった。僕は戸惑いながらも曖昧に頷く。  キラキラした目の人間や動物達の向こう側には、可愛らしい絵柄の家や大きなビルのようなものまでいくつも立ち並んでいる。村とはいったが、規模はなかなか大きいようだ。ちょっとした公園もあるようで、滑り台や砂場、ジャングルジムやブランコのようなものも風に揺れているのが目に入った。  ひょっとしたらプールもあるのだろうか、と僕は少しばかりわくわくする。僕は元の世界では、プールに入るのが大好きだったのだ。僕がおねだりすると、毎日お母さんがプールに入れてくれて、水浴びをさせてくれたものである。――ああ、やめよう。思い出してしまうと、せっかく楽しい場所にいるのに台無しになってしまう。 「プールもある?僕、泳ぐのが大好きなんだけど」  僕がふわりに尋ねると、ふわりは“もちろんあるよ!”と破顔して言った。 「この村には、人間に近い生活をしたいけれど、ある程度動物と同じこともしたい……って子も多いんだよね。だから、ペンギンやカバの子は、水場を家にしてたりするんだねぇ。リオも、水が近くにある家がいいかな?すぐにみんなで用意できるよ。大きな村人専用プールもあるから、じゃんじゃん遊んじゃって!」 「ほんと!?それは最高!」 「喜んで貰えて嬉しいな!」  プールにいつでも入れる。場合によっては家の中にも設置してもらえる。それを聴いて僕が心底喜んだのは言うまでもない。ふと、空中を見上げれば、さっきよりカラフルな風船がたくさん増えているように見えた。ひょっとしたら、あの風船はこの村の人たちの楽しい気持ちに呼応して集まってくるのだろうか。 ――あ……。  そんな中、家と家の間の路地をころころと転がっていくものが一つ。  あの黒い風船だった。どうやら黒い風船は宙に浮かぶことができないらしく、地面をごろごろと転がるか、ずっしりと鉄球のようにそこに佇むしかないようだった。あそこに黒い風船が、と言おうとした時、その風船はごろごろと狭い路地の奥に入っていってしまって見えなくなってしまった。  そして、気づいたことはもう一つ。  その風船を、じっと目で追っている者が、もうひとりいたのである。
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