<4・ごめんなさい>

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 黒い風船が割れてしまうと、そのガスを吸ってしまった者達はみんな思い出してしまうのだという。この世界にやって来る前に持っていた悲しい記憶と、それに付随する暗い感情を。それは、カラフルな幸せな風船達の力を持ってしても抑えきることができないもの。ガスを吸ってしまった者達を救うには、とにかくまだ割れていない黒い風船と、汚染物質と化している割れた風船を全て回収して空気中の除染を行い、住民達を暫く病院に入院させるしか手立てがないのだそうだ。 「本当は、新入りさんを巻き込むのは申し訳ないんだけどねぇ。今回汚染されたエリアは村から近いから、とにかく今は村の人総出で急いで対処しないといけないの。ガスがこっちに流れてきてしまったら大変なことになるから」 「た、確かに。それで、俺は何をすれば?」 「割れちゃった黒い風船の欠片を回収するのをお願いするつもり。割れちゃった風船にもまだガスは残ってるから、そのまま放置しておくだけで土壌にマイナス感情を染み渡らせていっちゃう。土まで完全に汚れちゃったら、あの付近のエリアそのものを当面封鎖しないといけなくなっちゃうんだよ。そうしたら、住んでいた子達がみんな困っちゃう」  それは一大事だ。僕はわかったよ、と頷きふわりに従うことにした。  その時ふと、思い出したのは昨夜出会った彼のことだ。 『明日になれば、わかる。俺が言っている言葉の意味が』  シリル。彼は、まるで今日起きる騒ぎを予見しているような物言いだった。  まさか、と僕は思う。今回の騒動、シリルが関わっているのだろうか。 「あ、あのさふわり。黒い風船って、そんなに簡単に割れちゃうものなの?」  彼が犯人かどうかもわからないのに、名前を挙げるのは憚られる。ただ、これだけは確認しておかなければいけないと思った。もし、あんな非力そうな少年の手では割れないほど風船が硬いなら、自分の心配は完全に杞憂だということになるのだから。  しかし。 「普通の風船よりは硬いけど、でも割れないことはないよ。トンカチみたいなもので叩けば割れやすい。黒い風船はカラフルな風船と違って重くて重心が安定しやすいから、攻撃的な気持ちを込めて叩くと結構簡単に割れちゃうの」  ふわりの言葉は、自分の望んだ通りのものではなかった。  僕はただ、そうなんだ、と言うに留めた。もし本当にシリルが風船を割った犯人ならば、一体何のためのそんなことをしたというのだろう?
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