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「こ、ここ、どこ!?」
驚いてきょろきょろする僕の手をそっと握った者がいた。はっとして振り向くと、そこにはピンク色の髪に緑色の目をした可愛らしい女の子がちょこんと佇んでいるではないか。
人間ではない、ことはすぐに分かった。人間そっくりの姿をしているが、決定的に違うところがあるからである。彼女は、猫の三角形の耳をくっつけていた。その上で、お尻から長く艶やかなしっぽを垂らし、ゆらゆらと揺らしていたのである。耳としっぽは茶色だった。彼女はふにゃ、とした笑顔を見せて、僕に告げる。
「はじめましてー。わたし、ふわりっていうの。この世界に新しく来た友達を案内するのが私のおしごとー。仲良くしてねぇ」
「へ?は……あ、うん」
彼女の手はよく見れば、人間よりも猫の手に近いものだった。ふわふわの肉球がくっついていて、でもまるで人間のように発達しているのかしっかりものを握ることが出来るようになっているらしい。とすると、力をこめれば鋭い爪を出すことも出来るようになったりするのだろうか。僕は近所でよく見かけていた野良猫のことを思い出していた。最近あまり見なくなったが、あの三毛猫は元気にしているだろうか。メスの割に壁は登るわ木は登るわ烏と格闘するわ、実にアクティブで元気のいい猫だったが。
猫は可愛いと思うが、正直遠目で見るだけで充分というのが本心だ。
奴らは見た目に反してなかなか凶暴なことが多い。ちょっと近づくとすぐ猫パンチをかましてくるのはどうにかならないものか。しかも結構爪も出してくるので地味に痛い。僕は彼女の手と自分の手をまじまじと見比べてしまう。――そういえば、自分の手にも違和感がある。自分の元々の姿は、こんな人間っぽい姿ではなかった気がするけれど。
――あれ?元の僕って、なんだったんだっけ。
泣きながら、帰って来ないお母さんを恨んでいた気はするのに、なんだかそれ以前の記憶が曖昧だ。
頭がまだふわふわするのは、この世界にやってきたせいなのだろうか。
「えっと、ふわりって元々猫だったりするの?」
猫は苦手だ、と言ったら気分を悪くしてしまうかもしれない。とりあえず当たり障りのないことから尋ねてみることにする。
すると彼女は、ピンク色の髪からぴょこんと覗いた耳を動かして、うん、と愛らしく頷いた。
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