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「猫だよー。野良だったけどねえ」
「何で中途半端に人間みたいな姿してるの?そりゃ、人間の身体になったら、便利なこともたくさんあるかもしれないけど」
「この世界では、好きな姿に変わることができるからねえ。わたしは猫としての自分が好きだけど、人間みたいになるのも面白いかなあって思って、猫人間みたいな姿になってみたの?どうかな、可愛いかな?」
「う、うん。可愛いよ」
「良かった!」
ちょっと人間離れした見た目が過ぎるんじゃないかな、と思ったけれど。よくよく考えれば、人間が大好きなアニメや漫画というやつは、本来なら“そんな髪の毛の色の人間なんかいないだろ”ってキャラクターも珍しくない。僕の姉さんはいわゆる“オタク”というやつだったらしく、それはそれはいろんなアニメや漫画のポスターを買って部屋にべったべったと貼っていたけれど。その中には、ふわりみたいなピンク色の髪の毛の男の子や女の子もちょいちょい存在していた気がする。でもって、彼女みたいになんというか――目が大きくてキラキラしていて、妙に幼い顔をしたキャラクターも多かったというか。
「可愛いけど、あんま現実の人間っぽくないよね」
僕が思わずストレートな感想を漏らすと、彼女は少しだけ表情を曇らせた。そして。
「窓の外から、こういう感じの女の子のポスターが見えたの。こういう姿なら、人間に好きになってもらえるかなって、そう思って」
さっきより少し小さな声で、そう言った。どうやら僕は、彼女の触れて欲しくない部分に無作法に踏み入ってしまったということらしい。思わず“ごめん”と謝った。何も、傷つけたかったわけではないのだから。
「すっごく可愛いし、いいと思うよ。こ、個人的には完全に猫よりもとっつきづらいし」
「なるほど、君は猫が苦手と見た」
「え!?あ、いやそれはその、そういうわけ、でもあるけど」
「気にしなくていいよお。そういう子も此処にはいるからねー」
彼女に手を引かれて、ふわふわの床を歩いていく。丸い風船の類は、身体に当たっても特に痛くはないようだった。ふわふわと飛んでいくそれに、思わず飛びつきたくなって止まる。なんだろう、ああいうものがころころ転がって逃げていくと、頭突きをしたり鼻先でつっついてみたくなるのだ。自分の元の姿の本能、とかそういうものであるのだろうか。ということは、やはり僕は元々は人間ではなかったということなのだろう。何故か今は、人間のような姿になってしまっているようだけれど。
ああ、鏡が欲しい。自分が今どんな姿であるのか、鏡も何もないから確認することも叶わないのである。目線の高さからして、ふわりとさほど身長の変わらない子供の姿であるのは確かであるのだろうし、性別的に考えても多分少年の姿であるのだろうけど。
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