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<2・いらっしゃい>
緑色のドアを抜けると、そこには絵本の世界で見たようなメルヘンな空間が広がっていた。
キラキラと星屑のようなものを舞散らせながら落ちる滝壺には、クレヨンで描いたような虹がかかっている。先ほどと同じ、カラフルな風船のようなものもあちこちでぷかぷかと浮かんでいた。まるでアニメの世界にでも迷い込んだよう、と思っていると、僕の目の前を二匹の蝶々が踊るように横切っていく。
黄色の羽根に、青い模様が入った蝶々なんて見たことがない。二匹でくるくると追いかけるように飛んでいるということは、カップルか何かなのだろうか。
足下の草も、花も、木も。まるで、子供が描いたようなアニメチックな風景となっていた。触感は普通の草木と同じなのに、なんだか不思議な気分だ。足下の花を踏まないように気をつけながら歩いていると、今度は足下をのっそりとした大型犬くらいの大きさの生き物が通過していく。
「わ。わわわ!」
「あら、イマイさん、こんにちは~」
にこにこしながら、その生き物に手を振るふわり。彼女の様子からして、害のない生き物なのだろうか。長い手足はもっさりとした白い毛に覆われていて、手足の先には鋭い爪がついているようにも見える。襲ってきたら怖そうな見た目であるというのに、ふわりはまったく気にした様子がない。
というか、イマイさんとはいかに。まるで人間の苗字のような――まさか。
「もしかして」
さっき、彼女はこう言っていた。
『此処に来ると、みんな自分の好きな姿に変身できるの。リオも人間の姿になったってことは、人間みたいになりたかったってことなんじゃないかな!』
『此処にはいろんな子が来るの。吸い寄せられるように、不思議な重力が働いてるんだね。わたしみたいに、元々野良猫だった子もいるし、人間もいるし、他の動物もたくさんいる。この入口の空間に吸い寄せられて来た子を案内するのが、此処の神様にお願いされたわたしのお役目!』
「今の、動物の……イマイさん?四つ足に見えたけど、元人間だったりする?」
「正解!元は、今井良樹さんていう男の人だったんだよー」
何でもないことのように、ふわりはあっさりと言い放った。
「元人間だった人で、此処に来た人って、どうしてだか動物になりたがる人が多いんだよねえ。今の、イマイさんもそうなんだよ。人とのコミュニケーションが嫌になってしまって、それでも寂しくて、誰かに一緒にいて欲しい気持ちもあって。だから、ナマケモノの姿になったし、喋れないことを選んだみたい。こっちの言ってる言葉はわかるけど、向こうは喋れないから気をつけてね」
「なん、で」
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