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他の球体が、楽しそうにぽんぽん弾んでいたり、ゆったりと宙にに浮いているのと比べ、その黒い球体だけは重たそうに地面に転がっていた。まるでそれらだけ、何か違う物質で構成されてでもいるかのように。
「ね、ねえ!ふわり、待って!」
なんとなく、気になって仕方ない。前を走るふわりに強引に追いつくと、僕は彼女を呼び止めて尋ねることにした。
「さっきから見える、あの風船みたいなの何?」
「ふうせん?ああ、いっぱい浮いてる丸いのだね?」
彼女はあんなに走ったはずだというのに、息一つ切らせていない。ぴこぴこと可愛らしく耳を動かしながら、近くにあった黄色の球をつん、と指でつっついた。拳大のそれはふわりの動きに逆らわず、つつかれた衝撃でそのままふわふわと空気中を漂うように飛んでいく。
「これは、神様がこの世界のために作ってくれたものなの。この中には、楽しい気持ちや嬉しい気持ち、愛しい気持ちや優しい気持ちがいっぱい詰まってるんだよ。この世界のみんなが好きな自分になって、幸せに過ごすことができるのはこの球がたくさん浮いているおかげなの!この球の近くにいると、それだけでここの住人達はみんなあったかい気持ちになれるんだねえ」
わたし達を助けてくれる、大切なものなんだよねえ、と彼女は笑う。しかし。
「黒い球もそうなの?なんだか、あれは怖そうに見えたんだけど」
僕がそう告げると、途端に彼女の顔が曇った。しっぽをしょぼんと下げて、あれは違うんだよねえ、と言うふわり。
「あれは、本当ならあってはいけないものなの」
「あってはいけないもの?」
「寂しい子達を幸せにするために作ったこの世界に、あってはいけないもの。見かけたら神様に任命された“警察”の子達が片っ端から回収してるんだけど、それでもなかなか追いつかないんだよねえ。リオも、黒い球を見つけたら教えてね。通報しても、すぐに警察の子達が来られるとは限らないんだけど。それから」
一瞬、空気が変わったような気がした。鈴が鳴るようなふわりの声が、固く凍りついたような。
「普通の子は、絶対に触らないで。リオもだよ。あれが割れたら、大変なことになるんだから」
その時、彼女の表情はふんわりとした髪の毛に隠れてよく見えなかった。ただ、妙な威圧感を感じて、僕は“うん”と頷く他なかったのである。
もしかしたらあの黒い球には、幸せとは真逆の感情が詰まっているとか、そういうことなのかもしれない。ただ、神様がなんでそんなものを用意してしまうのか、そこにはどうしても疑問が残ったけれど。
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