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それ以上は話さないし、聞かないで欲しい。露骨にそんな空気を出されてしまったら、僕も訊くに訊けないというものである。
「……そんなことより!もうわたしの村、すぐそこなんだよ!見せたいものがたくさんあるんだよねぇ!」
ぱっと振り向き、こっちを見て僕の手を握った時。その瞬間にはもう、先ほどまでの冷たい空気は完全に霧散していた。
「可愛いものがたくさんあるし、そうそう人間の姿ってことは、リオは人間の文化に詳しいんだよねえ?なら、絵本も好きなんじゃないかな?おすすめの絵本がたくさん置いてあるお店があるの。……って言っても、代金とかは要らないよ。わたし達は誰も働かなくていいの。お金もごはんも、みんな神様が用意してくれるから!お店をやっている子は、絵本を見てほしいからやっているんであって、読んであげたらそれだけですっごく喜ぶと思うんだ!」
「そ、そうなんだ」
「うんうん。辛いことも苦しいこともなーんもない場所だから、何も心配しなくていいんだよ。此処に来る子達は、現実にないものを求めてくる子ばかりだから……ほとんどの子がこの世界をすぐ気に入ってくれるんだ。リオもそうなってくれたら嬉しいな」
ふわりは心の底から、この世界が大好きなのだろうと伝わってくる。だから、僕は彼女に手を引かれて村のある場所まで連れて来られる間、ただただ彼女の明るい声を聴き続けることしかできなかったのだ。
どうしても、尋ねることができなかった。この世界に興味はあるけれど、同じだけ不安がじわじわと募りつつあったから。
――僕、この世界にずっといてはいけない気がするんだ。自分がなんの動物だったのかも思い出せないし、寂しい想いをしていたのも確かにわかってるのに。
ほとんどの子がこの世界を気に入る、と言っていた。では、気に入らなかった子はどうなったのだろうか。
――ねえ、僕、此処から帰れない……なんてこと、ないよね?
帰るにはどうすればいいの、なんて。
気になっていても、どうしても口に出すことができなかったのである。
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