<3・こんにちは>

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<3・こんにちは>

 ふわりが案内してくれた村は、山の景色同様クレヨンで描いたようなシンプルな三角屋根の家がいくつも佇むような場所だった。同時に、あの神様が作ってくれた丸い風船のようなものがここでもたくさん浮かんでいる。むしろ、山よりも多いくらいなのかもしれない。住民が多いと風船も多く配置されるということなのだろうか。中にはカラフルな風船に乗っかって遊んでいる人間のような見た目の子供や、ウサギや犬猫のような動物の姿もあった。 「みんなー!新入りさんが来てくれたよー!」  ふわりが村の入口で声をかけると、遊んでいた人間達や動物達がわらわらと駆け寄ってきた。人間、カバ、ウサギ、犬、猫、鳥、魚のような不思議な外見のもの、怪獣のように見えるもの、とにかく形容し難いイキモノ――共通していることは皆が皆、目をキラキラと輝かせていることである。あまりの数に、僕は圧倒されてしまった。 「新入り?」 「新入りだー!」 「人間?ねえキミ人間?」 「いやいや、俺にはわかるよ。こいつは多分犬か猫のあたりだろうね。人に飼われていた動物のニオイがする!」 「嘘つけー!あんた鳥でしょ、ニオイとかそんな嗅ぐの得意じゃないの知ってるもーん!」 「ねえねえどっから来た?アメリカ?中国?日本?」 「この世界だとみんな共通言語に変換されるから、どこの国なのか全然わかんないもんねぇ」 「ねーねー私が作ったケーキ食べに来てよ!今回の自信作なんだから!是非新入りさんに食べてほしーなー!」 「やめておけって新入りさん、キティは毎回キッチンを爆破するスペシャリストだ。今回のケーキもきっとコゲコゲのコゲコゲだぞー」 「そんなことないもん、美味しいのできたもん!」 「絵本は好き?私達のお店にたくさん揃えてるんですよー」 「遊ぼ遊ぼあっそぼー!!」 「風船流しゲームやりたい!」 「ええ、鬼ごっこがいい!」 「もー押さないの!お前ら子供かー!」 「子供ですぅ!」  こんな具合である。あっちからもこっちからもしっちゃかめっちゃかいろんなことを言われるので、僕は混乱してしまった。兄が教科書で勉強していた“聖徳太子”とやらなら全部の話を聞き取って返事をすることもできたかもしれないが。 「みんな、新入りさん困ってるよぉ!あんまり一気に喋ったら駄目なんだねえ!」  はいはい!とふわりが手を叩く。すると、みんなが一瞬にしておとなしくなった。どうやらふわりは新人を案内するというだけではなく、この村では一目置かれる存在であるらしい。村長みたいなものだろうか、なんてことを思う。絵本とかに出てくる村長さんというのは大抵ヒゲを生やしたおじいさんなので、ふわりのイメージとは似ても似つかないものであるが。
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