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──高校時代。
東生、愛咲、真奈美、樹、そして僕の五人でよく連み、放課後は決まって街をブラついたり、駅前の小さな広場で駄弁ったりしていた。
この時の僕は、まだ樹の事を気の合う友達の一人にしか捉えてなくて。
肩が触れ合う度に、樹の距離がやけに近いなとは感じていたけど……別に嫌じゃなかったし、気にも止めなかった。
「……んじゃあ、そろそろ帰るか。愛咲は俺と一緒な!」
「えぇーっ。私は愛月と帰りたぁーい」
「つーか、東生っち。……私を完っ全に忘れてるでしょ!」
縁石に座っていた東生が、尻についた砂を払いながら立ち上がると、その様子を見上げながら愛咲が甘えた声で拒否り、目の据わった真奈美が東生の前で仁王立ちする。
そんな三人に苦笑しながら、手を振って別れる。樹は僕と同じ方向で、その日もいつものように肩を並べて帰路についた。
「……愛月」
「ん?」
「最近、愛咲と仲良さそうだね」
「……そうか?」
まぁ、確かに。言われてみれば最近、愛咲がやたら話し掛けてきたりはする。
「あっ。もしかして樹、愛咲狙ってたりする?」
「……」
揶揄う様に言った僕に、柔らかな笑顔のまま樹の顔が少しだけ曇る。
「……あれ、真奈美の方だった?」
変わらず揶揄し樹の顔を覗き込めば、樹は寂しそうに笑い返す。
「……愛月」
「ん……」
「俺には…お前だけだ」
──ドクンッ
樹の真っ直ぐな言葉に、心臓を打ち抜かれる。
……え、何これ……
何で……
僕と樹の間に、甘く切ない風が吹き……ふわりと、樹の匂いが優しく僕を包み込む。
「……っ、!」
近すぎる距離。
視線のすぐ先には、樹の顔。
熱っぽく潤んだ瞳を向けられ──直ぐそこまで、樹が迫っていて……
「……えっと、さ。止めない?
そういうの。マジっぽくなるから、さ……」
樹に返す。何でもないフリをして。
ドキドキと煩い心臓を、必死で抑えながら。
「………はは。そうだね」
「……」
立ち止まった樹が笑い返す。
でも、何で──
何でそこで傷付いた顔、するんだよ……
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