2話・1日で催眠術師になれたら苦労しない

2/9
前へ
/352ページ
次へ
 翌朝登校すると、先に来ていたキョージンが教室に入るおれを見るなり、待ってましたとばかりに席を立った。  うれしそうにおれのあとを追って席まで来る。 「で、で! 昨日あれからどーだった!?」  期待いっぱいの眼差しが、背中からでもわかるくらい突き刺さってくる。  横目で殺意いっぱいの眼差しを返すが、さすが狂人、あえて空気を読まないからおれが諦めるしかなかった。 「当然だけど、かからなかったよ」  淡々とそう伝えると、キョージンはあからさまに落胆の色を浮かべた  昨日、桑田エンジェルという派手なおじさんに事務所に拉致され、最初に彼の得意とする催眠術をかけてもらうことになった。  けれど、1mmも桑田さんの指示に体は従うことはなく、固まるはずの手足は動き、わさびはめちゃくちゃ辛かった。  さすがに申し訳なくなって謝ったら、「いやー君はそうかなと思ったんだよ、全然予定の範囲内!」と桑田さんは余裕そうに笑っていたけど、じゃあなんでわさび食べさせたんだ。 「んじゃ、教えるって言ってたやつは?」  諦め切れないとばかりに喰い下がられる。 「講座は、受けた」 「実戦はしてないの?」 「事務所にいた人にかけさせてもらったけど。あの人の身内だし、やってんのかやってないのか分からん」 「お、じゃあかけるのは一応できるんだな。俺にもやってみてよ!」  つまらなさそうにしていたキョージンの目が、わかりやすく輝く。
/352ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加