2話・1日で催眠術師になれたら苦労しない

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 声の主を見上げると、短い前髪の下で大きな瞳をぱっちりと開いて阿南が微笑んでいた。  細い首をかしげて、長いツインテールが揺れる。  阿南日葉(あなん にちは)。  彼女もキョージンと同じく小学生からの知り合いだ。  クラスの学級委員で、誰とでも喋れるトップ・オブ・ザ・陽キャの称号を持つ彼女。健康的な長い手足を惜しげもなく見せる制服の着こなしは、まごうことなき陽キャの証拠だ。  小学生のころは一緒に遊んでいたこともあったけど、今は話しかけるのも躊躇(ためら)われるカースト上位の雲の上のお方になってしまった。  ……というか陽の瘴気が強くて近づくと死ぬんで、話しかけようとも思わないんだけど。 「ちがいまーすー。神ちゃんが催眠術を習得したから、かけてもらってたんだよ」 「えっ、なにそれ!? 神多くんそうなの!?」  キョージン、余計なことを……。  阿南とは10年以上の付き合いでも、苗字呼びという距離感からお察し。のはずが、気のせいか話に食いついているように見えるんだけど? 「いや……習得したわけでは……」 「すごいすっごーい!! あたしにもかかりたーい!!」  気のせいじゃない……!?  阿南は新しいおもちゃを見つけた子どものように、人の話も聞かずに容赦なく身体を寄せて来る。  ちょっと待て待て、当たってんだけど! 距離が近い!!
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