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「おはようございます……?」
恐る恐る声をかけてみると、阿南は「うーん……?」と唸って、わずかに顔をしかめながら首をかしげた。
……あれ、変化なし?
あれだけかかってそうな雰囲気出してたから、また期待して力を入れてしまった……。
恥ずかしさ再来。黒歴史へまた一歩驀進。
諦めて前のめっていた体を起こし、後ろの窓へと寄りかかった。その流れで、前の席でガン見していたキョージンへ肩をすくめてみせる。
「まあ、そーだよな……」と、キョージンも失笑して話し始めたときだった。
「わんわんっ」
話題は即座に放棄した。
ふたりでガバッと声の方へと向き直ると、阿南は口を押さえ、突然しゃっくりでも出てしまったかのような顔をしていた。
「えっ………………かかってる?」
聞いてみると、口を塞いだまま小さく首をかしげる。
いやそこはしゃべってよ。
「にっちゃん、自動車レースといえば、エフ?」
「……ワン?」
「いやそれじゃわからないから」
ボケる二人にすかさずツッコむと、
「わん。……っ!」
おそらく笑おうとしてぽろりと出てしまった「わん」に、阿南の顔がみるみる赤くなる。
な…………まじで?
黙って顔を見合わせていると、無情にもチャイムが鳴った。
クラスの人たちが次々に席に着くので、おれたちも慌てて解散する。
SHRが終わるとすぐに1限目の教科の先生が教室に入り、そのまま授業が始まってしまった。
嫌な予感というか、むしろ関知というか。蒔いた種は必ず回収をされる。物語とはそういうものである。
「じゃあ、この問題を阿南さん」
「わん! ……っ!?」
「って、まだそれ続いてんの!?!?」
運悪く先生に当てられて真っ赤になる阿南に、まあまあの声量でツッコむキョージン。
そしてざわつくクラスに、唖然とするおれ……。
お遊び催眠術が授業に入っても続いているなんて、よもやの世界だった。
どきどきと鼓動が早くなり、混乱と焦りでどっと汗をかく。
キッと阿南から非難の視線が飛んで来るが、教科書で顔を隠してガードした。
授業のあとで、阿南にめちゃくちゃ謝ったのは言うまでもありません。
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