3話・コミュ障が催眠で治るわけがない

3/14
前へ
/352ページ
次へ
 キョージンはもったいぶるようにして、おれから阿南へとゆっくり視線を移した。 「なあ、これってすごいことだぞ。高校生催眠術師って聞いたことないし、うまくいくとマネタイズもできると思う」 「まね、たいず?」 「そうよにっちゃん。だけど神ちゃんはひとりじゃやらないだろうし、俺たちがプロデュースする必要がある。億万長者になったらGUE◯SのTシャツを着てBALENCI◯Aのキャップをかぶり、ハワイでゴルフでもしようじゃないか!」  出たよ、キョージンの狂人っぷり。しかも思考と志向と嗜好がおっさんすぎる。  JKにはヴィトンの財布とかのほうがわかりやすいだろ。阿南キョトンとしてるじゃん……。  まったく、こいつはなにかあればすぐビジネスに結びつけたがる。  そしてなにかをはじめてうまくいった試しがないのも、おれは知っているぞ。  大きなものだと中3のとき。  小・中学生の15秒動画アイドルプロジェクトを立ち上げて(プロデューサー)を始めたものの、ネットで集めたメンバーがまとまらず、さらに通報も多くて(なにやったんだ)運営からもアカウントを消され、挙句は集めたアイドルたちを野に放って逃走。大ひんしゅくをかった事件はいまだ風化してない。  メンバーはこの高校にはいないから良かったものの、いまだに当時のアイドルと街でエンカウントしそうになったら逃げ隠れしていると聞く。  一度人に慣れてしまった動物は、野生で生きられないんだよ……。  というか。 「おれは誰からも金を取る気はない。それに催眠術も信じてないし」 「いや、昨日かけたじゃん! で、かかったじゃん!?」  キョージンが目をひんむかんがばかりに大きく広げ、おれと阿南を力強く指差す。 「でもおれたちはかかってないし」 「ぐ……。そうなんだよなぁ……」  キョージンは腕組みをし、頭を後ろに投げ出した。  おれたちはなぜ、彼の喉仏を見せられているんだろう。 「なんか、ごめん……」 「あはは。キョーくん久しぶりに話すけど、相変わらず変わってるね〜」 「変わってるね」で許してくれるこの子、どれだけ人ができているの。陽キャは心に余裕がありすぎ。  阿南の顔をまじまじと見ながらそんなことを思っていると、 「……よし。マネタイズ化の前に、もっと事例を増やすしかないか」  と、真面目な顔をしながらキョージンが頭を戻した。
/352ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加