3話・コミュ障が催眠で治るわけがない

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 返事をする前に、阿南のツインテールが宙を水平に切った。 「やっまねくーん! ちょいちょい!」  しかもおれたちが行くんじゃなくて呼ぶのかよ、君、何様なの!? はい、阿南様でした!  山根はおれたちを見て(いぶか)しげだったが、阿南に呼ばれたからか、素直にグループから抜けてのそのそと歩いてきた。 「え、なに?」  近くに来てから、特におれとキョージンがじろりと見られた。  なぜ下々(しもじも)の者がおれたちの阿南と一緒にいるのかと、目が物語っている。  こいつらは無意識に、こういう人を見下した目をするんだよな。 「あのさ、山根くんって催眠術に興味ない?」  天真爛漫、悪意ゼロ!で、日葉が山根に尋ねた。それでも山根の眼光が少し険しくなる。 「催眠……術?」 「うん! 神多くんがかける人探していて、もし良かったらかけさせてもらえないかな?」 「なんで俺なの?」  阿南がおれに視線を送って会話のパスをくれた。  あまり良い流れとも言えないけど、そもそもおれが先に説明したら一言も話を聞いてくれなかっただろうな。というわけで、十分なお膳立てをありがとう。 「……絶対に、かかったふりをしなさそうだから」 「はあ? そもそも、催眠術なんてあるわけないだろ」 「そうだよね。おれもそう思う」 「え、なんなの? からかってんの?」  山根がイラついた声でおれに食ってかかる。  明らかに不機嫌な表情。  これは……うん。山根くんはもう少しカルシウムを摂ったほうがいい。 「……ちなみに、かかってみたい気」 「ない!」  とうとうかぶせ気味に怒鳴られてしまった。  阿南がもし最初に話しかけてくれなかったら、本来これが会話の一発目だったんだろうな。 「オッケー、わかった。ありがとう」  降参とばかりに両手を胸の前で広げてそのまま手を振ると、山根は眉をひそめながら何度も振り返りつつ、自分のグループに戻っていった。
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