3話・コミュ障が催眠で治るわけがない

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 山根が戻ったのを見届けて、ふーっと息を吐きながらストンと席に座る。  おれ、がんばったー。 「って、神ちゃんやる気なしかい!」 「あれだけ否定している人にかけたほうがよかったんじゃないのー?」  前と隣から飛んで来るブーイングに、右耳を塞ぎながら言い返す。 「たぶん山根はかからないと思うし……」 「なんでだよ?」 「相手がかかりたいと思わないと難しいから」  おれに1日で催眠術を叩き込んだ桑田エンジェルさんの教えによると、「催眠術師が人を操っている」という認識は間違いだそうだ。  かける人の『かけさせてください』と相手の『いいですよ、かけてください』がないと成立しない。  かける人とかかる人の協力関係や信頼関係が成立していてもかからない人もいるし、かかる人はかかる人で素質がある。だからおれがすごいとかじゃなく、あれだけかかった阿南に素質があるんだと説明をした。 「だったら、圦本(ゆりもと)さんはどうかな?」  話を聞き終えた阿南が、妙案とばかりに手を叩いた。  今度は教室中央列の前方の席に、ぽつんと座る小さな女子の背中に全員で目を移す。
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