3話・コミュ障が催眠で治るわけがない

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「……神多(かんだ)です」  緊張して顔を強張(こわば)らせた女の子が、こくりと頷いた。  おれみたいな地味な人間でも認知はされていたらしい。まずは第一関門突破だな。 「おれもまだ信じてないんだけど、催眠術が使えるっぽく……」 「おお!」と驚いたように圦本の口が開く。意外に表情豊かめ。 「圦本さんって、話すの苦手……だよな?」  圦本はまた顔を曇らせて、こくりと頷いた。 「でも、圦本さんがここに来てくれたってことは、少なくともおれたちとコミュニケーションは取ってもいい……ってことですか?」  少し悩んでから、こくこくと頷く。 「楽しく喋る催眠とか……、かけられるのは嫌?」  ぱあっと顔が明るく変化していく彼女を見てホッとした。  もしかしたら意図的に喋らない人かと思っていたけど、単純に喋るのが苦手なだけみたいだ。 「あの……本人が嫌だと思うことは、絶対にかからないから。興味があって、かかってもいいかなという催眠だけ楽しくかかるものだから、安心して欲しいです」 「おー」と素直に感心している彼女を見て安堵しつつも、どこか憂鬱な気持ちもあった。  これだけ期待させておいて、もしできなかったら。  きっと圦本は失望するだろう。 「初心者だからかからないかも」なんて予防線を張ることはできない。  催眠術は、信じる力が強ければ強いほどかかるものだ。  だから、相手に「この人だとかかりそう」と思い込ませるのも重要だと、昨日、催眠術師の桑田エンジェルさんにメッセしたら言われてしまった。  キョージンがかからなかったのは、それのせいかもしれないらしい。 「じゃあ圦本さん。饒舌キャラになってみよう」  しかしここまで来て、引き返すことはできない。  やれるだけのことはしてみようと、深呼吸して気合いを入れた。
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