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アデリナもオリヴァーもおどろかない。親王が玉座に座るつもりがないから、想像はたやすいのだろう。
「なんと答えたんだ」
「まだわからない、と」
自分の将来が想像できない。弟のように、やりたいものが見つからない。
顔を伏せていると、アデリナが柏手をうった。
「ねえ、ゼノビア殿下。好きなものあるよね?」
「本は好きだけれども、作家になれとでも」
「ええ、そうよ! 殿下にしか書けないものが、あるでしょう?」
……わたしにしか書けないもの。あっただろうか。オリヴァーはわかっているのか。小さくわらっている。はっとして、顔を上げた。
「母上と父上のお話?」
「ええ。昔よく、聞かせてくれたではございませぬか。ひとつ書物にしたためてみてはいかがでしょう」
民間には作り話ばかりが流れていて、実際に皇帝陛下と皇配殿下がどのようにして平穏をもたらしたのか知るものはいない。だからこそ娘が、事実を世界に発信してみてはいかがだろうか。それがアデリナの提案だった。
頬が紅潮し、胸が高鳴るのを感じる。
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