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第二十七話「⋯⋯使えた」
「うう⋯⋯、一体何があったんだ?」
パチパチと音を立てながら揺れる焚き火のおかげでなんとか顔が見ることができる。眩しそうに炎を見つめ、少し眠そうにしていた。
「⋯⋯ごめん。僕が昼にも帰ってきてたらきっと大丈夫だったのに」
お金を沢山稼ぐこと一心に働いていたのでお昼を食べさせてあげることも忘れていた。本当に、どうして僕は⋯⋯。
なぜこんなにも全てがダメダメなのだろうと思うともう嫌になってくる。迷惑ばかりかけて、挙げ句の果てには見捨てるようなことをしてしまった。
「お前、今自分のこと責めてんだろ。顔見せろ」
いきなりうつむいていた顔を上げられるので泣いていたのがバレてしまった。そして、悪いことをした。と思ったのか、気まずそうな顔をされる。しばらく口をパクパクさせてから、深呼吸をして彼は声を発した。
「⋯⋯何泣いてんだよ。男だろ」
「だって、僕のせいで君が死にかけたんだよ!? 自分の仕事に夢中になって、君のことを置いてけぼりにして。⋯⋯そんなの、自分が嫌いになるだけだよ!」
危うく一人の仲間を殺しかけたのに、どうして泣かずにいられないのだろうか。収まることのない頬を流れる水はなおのことポロポロと玉となって落ちていく。
「たしかに、お前が昼に帰ってこなかったから俺は腹が減って死にかけた。⋯⋯でも、助けてくれたのもお前だろ?」
「え⋯⋯。なんでそれを?」
「だって、泣きそうな声で何回もイーグニスッて唱えてただろ。あれなら誰でも起きる」
ん⋯⋯? 今、起きるって。
それを聞いて、何か不自然に感じた。
「⋯⋯もしかして、ただ寝てただけってこと?」
「一休みのつもりで眠っていたがどうやらそのまま永眠しかけたらしい。本当、寒さというのは恐ろしいな」
しばらく二人とも黙り込んで、お互いに声を出すのが躊躇われるようになった。
「⋯⋯本当、心臓に悪いから」
心臓にもはや痛みさえ感じる。このままではこちらが死んでしまいそうだ。先ほどよりも心拍数は減ったきたもののまだまだあの感覚が残っている。
「はあ、そんな話せるなら体調はもう大丈夫そうですね。⋯⋯すこし暑いので涼みに行ってきます」
火を焚いているからか少し暑くなってきた。それとあの叫んでいた呪文を聞かれていたのも恥ずかしい。何か変なことを聞かれていたりしないか余計に不安になってきた。
立ち上がり、洞窟の外を出ようとした時だった。
「⋯⋯そうだ。使えたじゃねえか、魔法。⋯⋯凄かったぞ」
その言葉に思わず振り返る。彼は親指を立ててにっこりと笑っていた。それに対して、僕は小っ恥ずかしく、少し微笑むことしかできなかった。
「ま、魔法使いなんだから当たり前です。村のみんなはこの程度の魔法四歳くらいでできてました」
僕の魔法は弱すぎて規格外。使えたところでみんなに追いつくことはないだろうし、敵うこともないだろう。
「へえ⋯⋯。前は『魔法が使えない僕なんて!』なんて言ってたのにな」
ニヤニヤしながら僕の物真似をする。それを聞いた瞬間カッと耳が暑くなるのを感じた。あの時は何もかも信じられなかった時期であんなことを口走ってしまったのだ。
⋯⋯とにかく、今考えると本当にあれは黒歴史なのである。
「とにかく、あまり僕をおちょくらないでください。⋯⋯いつの日にか、あなたを絶対に燃やしてみせます!」
高らかにそう宣言すると、ケルは苦笑いをして困るような口調で口を開いた。
「あ、それはやめてくれ」
その様子がおかしくて、互いに顔を見合わせてクスクス笑う。最近は特に笑ったり泣いたりで忙しい。でも、この忙しさは悪くはないかな。
洞窟の出口の前で、伸びをするネスロ。今になってよく見ると、帽子もあちこちにツギハギの跡が見られずっと使い続けてきたのが分かる。
いつか魔法学校に行って、お父さんやお母さんのような優しい魔法使いになる。その大きな夢を抱いていた小さな少年は、全てを諦めていた。
俺には良く分からないが、どうやら魔法使いには魔力という切っても切れないものがあるようだ。それは本人の努力には関係なく生まれ持った時から定められているようで、なんとも残酷な話だと思う。
でも、魔法が使えないことは関係ない。ただ共に過ごせるのなら魔法なんて二の次だ。いつの日か初めて触れた優しさに俺はすっかり盲目になってしまったようだ。
炎がパチパチと揺れる。ネスロの手によって生み出された物だと考えると不思議なものだ。きっと神様も見ていてくれたのだろう。
——成長を目の前で見て嬉しさを感じた。ほんの少しの焦りと共に。
少しの間のほほんと光を眺めていると何もかも忘れそうになる。微睡ながら座っていると、不意にネスロが隣に座ってきた。
「⋯⋯本当に、ありがとうございます。こんな僕なのに旅に連れ出してくれて」
すると、カクンと頭が下に下がりそのまま止まってしまった。どうやら眠ってしまったらしい。
「⋯⋯何言ってんだ。最初に救ってくれたのはお前だろ。こちらこそありがとな」
誰も聞いていない独り言が洞窟の中に溶けていった。
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