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聞こえない声
「悠おはよー」
寝室で教科書を整理していると、声がかかった。
同室者の久瀬 光流だ。
「おはよ光流、今日食堂行く?」
「あ、俺今日先輩たちから呼ばれてんだよね…、良かったら悠も来ない?」
また先輩。
ここ最近よく光流を誘ってきてる。
今日は生徒会、風紀のどっちだろ。
「ん、俺はいいや…先輩たちも光流と話したくて誘ったんだと思うし、邪魔になるだろ?」
ごめん光流、別に突き放したいわけじゃないんだ。
話の輪に入れるはずがないから。
「ええ?!そんなことないよ…!寧ろいてくれた方がいいっていうか…!!俺あんま親しくない人といると辛いし…」
「知ってる、でも最近はよく話してるし少しは平気なんじゃない??話にも入れないだろうしさ」
「悠の話もするよ?その時に入ってくれれば…」
「まぁ今日は遠慮しとくよ、日直だし」
「そっ、か…なんかごめんな、それより目のクマすごいけど、また眠れなかったのか?」
それより、ね。
まぁいいけど、俺が眠れないのは光流のせいじゃない。
俺の問題。
「いや、最近はずっとゲームしてて…」
「なにそんなことしてんの!?」
「光流が転入してくる前から結構やってたよ」
「今度混ぜて〜!俺ゲーム好きだから!」
「いいよ、てか光流着替えないの?もう俺行くけど」
話してる間に荷物はとっくにまとめ終わってた。
光流まだパジャマだし…
「え!?あ、やばいやばい!!ごめん先行っててー!!後で追いつく!」
「りょーかい、今日先輩の迎えないの?」
「今日は会議入ってるって」
「ふーん、?朝から大変なことで…じゃ先行くね」
寝室から共同リビングを抜けて
玄関まで歩く。
光流の部屋からはすごい物音が聞こえた。
「結構壁厚いのに…」
光流は、俺が遠慮してることに気づいてないのかな?
本当は俺だって光流とご飯食べたい、皆と食べたいけど…。
そんなこと言えるわけない。
光流が来て、学園は変わった。
何気ない生活に彩りが加えられたような、そんな感じ。
外部からの転入生に皆興味津々で、俺もその1人だった。
元々一人部屋だった俺のところに光流が同室者として入ってきた。
この学園はちょっと変わってて
先生より生徒の方が権力がある。
それは生徒の家庭事情だ。
世間で言う、富裕層に括られる。
財界に名を連ねる政治家の息子、名家の跡取りとなるような人間が通うということは、それなりに親から圧力がかかるのだろう。
世界に出る前に間違いを起こさないようにと、親共は俺たちを鳥籠に閉じ込めた。
全寮制の男子校に。
男子校だからと言って、バカ騒ぎをするわけじゃない。
いや、するか……
辺鄙なところにあるせいか、なかなか街の方にはいけない。
代わりに不自由しないようにはなってるけどね
間違いを起こさないようにと入れたはずの学園の中は、間違いだらけだ。
「こんな奴らを育てた親の顔が見てみたいよ」
…外部からの転入なんて今まで居なかった。
居たとしても、ここの難関試験を合格できるだけの技量があるわけない。
俺たちでさえ、問題を解くのに時間がかかると思う。
「光流は特別だけど」
光流はこの学園の中でも結構有名な家系。
生徒会、風紀に並ぶだろう。
今までは生徒会や風紀の人間と対等に話せるやつなんかいなかった。
家の力が大きすぎるし、何より親衛隊が怖くて近寄れない。
何されるかわかったもんじゃない……。
親衛隊にいる人間もそこそこ名の知れた家柄だったら尚更だ。
テストでも常に上位10位以内をキープしないと生徒会や風紀にはなれない。
要は、知性と権力を兼ね備えた強者揃い…、そんな人間に近づけるやつなんか指折りして数えた方が早いぐらい。
オマケに、親衛隊がつくほど顔がいい。
が、節操はない。
とって食ってるのを俺は知ってる。
下手したらそこらの芸能人よりも人気があるんだろうけど、やってることは最低だと思う。
「…俺なんか、到底及ばない」
転入して来た最初のうちは、平和だった。
俺も周りも皆光流と仲良く過ごしていたのに、ある日突然変わったんだ。
生徒会やら風紀の先輩が入ってくるようになった。
元々俺と居た友達も、光流を中心に集まるようになって、俺は独りになった。
一緒にいる時は、話をするし…ご飯も食べる。
でもそれは都合のいいやつってことだと思う。
「こんなはずじゃ…、なかったのに」
どこで何を間違えたんだろう?
何かあれば駆けつけてくれる人間も、こうした感情をぶつける相手も、俺にはいない。
友達っていないと大変なんだよな
助けを求める俺の声はきっと誰にも聞こえない。
「はーるー!お待たせーー!!」
「ぅわっ…!?」
いきなり抱きつかれて心臓が悲鳴をあげた。
…ビックリした。
「もー…ビックリするだろ、転んじゃったらどーするんだよ」
「…」
なぜ黙る。
なんだよ、なんか反応が欲しかったとか、?
「なに、?俺なんか変なこと言った?」
「…え?あ!いやいや!全然!!」
「怪しい…じーーー」
「なーんでもないって!悠たまに言葉遣いが幼くなるなって思っただけで!!」
幼い、?俺が!?
言葉遣いなんて気にしたこと無かったから、ちょっとグサッてきた。
「…無意識だったかも、やだった?」
「やじゃないです!!別に悪いとかじゃないし…っ!」
「ならいいけど…、光流は男らしいよね」
「え、そうか?」
「堂々としてて、俺末っ子だから…それもあるのかな?」
「あー、悠のお兄さん話聞いてる限りハキハキしてそう」
俺には2つ歳の離れた兄がいる。
俺の兄はなんていうか、アニメキャラクターみたい。
顔は良いし、できる人間だけど。
メガネとか、切れ長の目とか…圧が…。
「あれ?悠と2歳差だよな?てことは3年?あれ、でもまだ俺会ったことないかも、お兄さん」
「あ〜、そうだねまだ来て日も浅いし…、結構学園でもレアキャラ扱いだからさ兄さん」
「え。何なんかあんの?」
「実家の跡継ぎでもあるから、行き来してるんだよ。今月戻ってくると思うけど何ヶ月ぶりに会うかな?単位はとってるよ」
「うぉ、すげぇできる大人って感じ」
「まだ高3だよ…?あ、でも兄さん帰ってきたら会えるんじゃない?委員長とか会長と仲悪いけど元風紀委員長だから」
「え!?そうなの!??……てことは俺嫌われる、?」
「え、?そんなことないと思うケド?なんか会長と委員長といがみ合ってんだよ、意味わかんないでしょ?」
「え゛……それ絶対俺嫌われる…」
「なんでよ〜、大丈夫だって!」
隣ではずっと光流が唸ってる。
ちょっと面白い。
「あ、日直なの忘れてた!行かないと」
「あ!!待って待って!俺も行く!」
まだ重たい身体を動かしながら俺たちは教室へ向かった。
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