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「…い゛、…」
気を失ってたのか。身体が痛い…。
この部屋には時計がないから、正確な時間なんて分からないけど
「…お昼かな」
日の差し込み方で大体の時間は把握できるようになった。
原始的な方法とでもいうのかな。
「…首…ついてない…」
志築先輩…って言えばいいのかな
会長…?
とにかく先輩の持ってた首輪はついていなかった。
服もちゃんと綺麗になってる…。
…こんなこと無かったのに…。
人の気配はしない。
何でだろ…
そういえば会計はどこに行ったんだろうか。
押しかけて来た時もいなかった。
「つっ…ぃた…」
噛まれでもしたのか。
痛い。
今歩いたところでよろめくだけだろうが。
ここにいるよりずっとマシな気がした。
あ、俺のスマホがない。
持っていかれたか…。
「お腹すいた」
慣れればこんなのどうってことは無い。
減るもんじゃないし…
そう言い聞かせた。
(ガチャ)
「…え、…開いてる…?」
壁にも垂れながら扉を引くと
自分でも拍子抜けするぐらい呆気なくソレは開いた。
「閉め忘れ、なんてことはないよね…」
全く分からない。
光流が来るまでの俺は僕で、
その僕は光流が来てから俺になった。
今度こそ逃げないようにするかと…思ってた。
「…にしても…なんでこんなに静かなんだ…?怪しい」
胸が煩い。
なんだろう、すごく嫌な予感がする。
「…志築…先輩?」
…呼び方はいつも違うから…慣れない。
「起きたか」
「※△□※○〜〜?!!??!」
声にならない声が出た。
そりゃ驚きもするだろう。
気配を殺してたのか…?
アサシンかなにか、?忍びの者ですか?
いないと思った志築先輩が
いるなんて。
どういう風の吹き回しだ?
「…あ、…せ、先輩…っ…その、」
「身体は?」
「え、っ?」
突然の質問に声が裏返った。
恥ずい。
「そんなに緊張するか?俺といるのは」
「え、いや…その…すみません……、大丈夫です…」
目の前にいるのは志築先輩に扮した知らない人間としか思えない。
俺の知っている…先輩は…こんなんじゃない。
「無理させたからな、座ってろ」
「…は、はい…」
…状況が呑み込めない…。
散々いたぶったクセに…。
いつもの何様俺様会長様、の先輩じゃない。
「先輩…いらっしゃったんですね…勝手に、すみません」
いや元はと言えば悪いのは2人だけど…。
そんなのとても言えない。
「…そう怖がるな、俺も…悪かった」
「え゛…?!」
あ、あの先輩…が?謝ってる???俺に?
俺死ぬの…?
「なんだ、俺が謝るとおかしいか?」
「お、おかしくないです…すみません…」
「別にいい」
「ありがとう…ございます…、」
「違う、その…敬語」
「え、あ、…は、ぃ…あっすみませ…う゛、っ」
やばい俺めっちゃ混乱してる。
目の前に居るこの男は本当にあの
志築 晶…?
「え、と…そのなんか変わりまし…変わった、?」
とりあえず本当に怖いから言うことは聞いておこう。
タメ語…にしろってことだよね?
だよね???(不安)
「どうだろうな?悠、お前アールグレイとダージリン、どっちが好みだ」
「俺…あ、僕…はアールグレイが、好き…かな」
どうしよう、なんか言葉を選んでるからか歯切れが悪い。
というかなんで紅茶、?
紅茶の好み聞いて毒盛るとかないよね、流石にね。
それなら巫堂先輩の方がやりかねない。
「あぁ、そうだ…期待はするなよ、俺は普段給仕なんてしないからな…勝手がわからねぇ」
「きゅう…?!そんな!僕がやりま、す!!いや 、えと…やる!」
混乱しすぎてもうクラクラする。
流石に志築先輩にお茶淹れなんて…恐れ多い。
と、思って思い切り立ち上がった。
のがいけなかった。まだ足元がふらついてるのに…。
「あっ…っ!!」
やばい、倒れる…っ…!
「…悠っ!!!」
「う…っ…」
「まだ熱あんだろ…無闇に動くな」
まだ回りきらない頭でわかったのは
俺がフラついて倒れたのを志築先輩が支えてくれたってことだけだった。
「す、みません…!!!あの…っ?」
「敬語はいらねぇ、オドオドするな。名前も呼び捨てでいい」
「えっ…と…」
「俺の名前、知らないわけじゃねぇだろ?」
「晶………先輩」
先輩付けじゃダメなんて言ってないよね…?
い、一応…先輩だし…
呼び捨てなんて無理だし。
「…まぁいいか、無茶すんな…心臓が止まるかと思っただろ…」
はぁ…っとやけに色気のあるため息をつかれて…今自分が晶先輩の足の間にいることも、優しく添えられてる手も…
今の俺には何もかもが初めてで困惑した。
「……痛いか?」
スルッと項を先輩の手が滑る。
「ん、…あ…いや、大丈夫…」
「そうか、ならいい」
「晶先輩…?」
「ん、?」
なんでこんなに優しくしてくれるの?
なんて言えなかった。
まるで大切な物を見つめるかのように俺を見て…、微笑む先輩に胸がモヤモヤとした。
嫌な感じとかじゃなくて…なんだろうこれ。
「紅茶…大丈夫?」
「あ゛、やっべぇ忘れてたわ」
素の先輩を見ることができてるんだろうか。
もうこの後どんなに酷いことされてもいいとか、思ってしまった。
それぐらい、温かい。
「ん、少し飲め…眞のものとは比べもんにならねぇけどな」
「…お、いしぃ…」
ぽろっと頬を何かが伝った。
ずっと緊張してたのか、怯えてたのか。
「あ?!な、なんか嫌だったか?!調合か!?」
「ちが、違う…ぅっ…」
溢れるソレは止まらない。
悲しいわけじゃない、嬉しいのに…。
「俺こういうの慣れてねぇんだよ…」
(ガチャ)
あたふたしてる先輩の言葉を遮るように、生徒会室の扉が開いた。
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