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「葛城監督をクリエイターとして尊敬しておりますので、そのサポートをしたいと思い応募いたしました」
「本心では?」
「金払いがいい」
「気に入った」
可笑しそうに肩を震わせているけれど、葛城は依然として私を見ない。
わかっている。
だって、私の履歴書にはこれといって見るところがない。私自身に見るべきところがないから、あんなにじっと履歴書を眺めているんだろう。
新進気鋭の映像アーティスト、葛城陽菜の総合アシスタント。
おそらく、これが公開求人だったら面接までもたどり着けないほどの求人倍率だっただろう。私なんかが面接にまで漕ぎつけることはできなかったに違いない。ラッキーだった。非公開求人を見せびらかす馬鹿……もとい高槻のおかげで、私はここに立っている。
だから私は、このチャンスを無駄にはできない。
「お気に召していただけて、何よりです。……葛城さん」
「……え?」
私は立ち上がる。
太くてダサい就活シューズのヒールがぽこんと鳴る。
リクルートスーツからは、防虫剤のほのかな香り。
私は、葛城陽菜に、歩み寄る。
洒落たシルクのカットソー。その胸倉を、つかんだ。
「ぐぇ? ちょっ、え、うそ」
「家族構成についてお話しさせていただきます。父と母は健在で、私にはひとり、姉がおります」
「離して! どういうつもりなの、離しなさい! 人を呼ぶから!」
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