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葛城の声が震えて、手がテーブルの上のスマホに伸びている。
私は手を止めない。胸倉を押して、葛城を壁に押し付ける。
こんな荒事は初めてだけれど、迷いはなかった。体は動く。
だって、葛城陽菜に会いたくて。
ずっと、葛城に会いたくて、彼女の胸倉を掴みたくて生きてきた。葛城陽菜は、私が追い求めている謎を握っている。
「私の名前は四条冬花。冬に咲く花と書いて、冬花。葛城さん、あなたの作品群のうちいくつかが、ある人物の短編映画からの盗作であると知っています」
そう。
私がなぜ葛城陽菜という名前を知っているのか。
ある日見かけた動画投稿サイトに、見覚えのある作品が投稿されていたのだ。
――映画好きだった夏雨が遺した作品。その作品が、他人の名前で投稿されていた。あまつさえ、称賛を浴びていたのだ。
投稿者の名前は、「HARUNA KATSURAGI」。
見たことのある名前だった。ローマ字の羅列に、「陽 菜 葛 城」という漢字が結び付いた瞬間に、激しい眩暈に襲われた。
だって、葛城陽菜という女は――
「……あなた」
「私の名前は、四条冬花。私の姉の名前は、四条夏雨――七年前に死んだ、あなたの恋人だった女です」
ひゅう、と葛城の喉が鳴る。
その目がやっと、私をまっすぐに見た。見開かれる切れ長の目。
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