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高いピンヒールを履きこなし、私よりも頭ひとつと少し背の高い葛城の胸元から手を放す。みっともなく床にへたりこむ葛城を、私は見下した。
ふらふらと揺れる葛城の視線が、私の右手の薬指にとまる。
夜空色の石をあしらった指輪。四条夏雨の、遺品。
リクルートスーツだって、夏雨が大学の入学式で着たものだ。いつでもこのスーツを着られるように、体型維持には気を使ってる。今の私は夏雨よりも、すこし背が高いから。
「……何が望みなの」
「私、採用面接に来たんですよ。日々の生活に密着して、あなたの活動を支えましょう。私をあなたのアシスタントにしてくださいな、葛城監督。あと、私ちょっとした探し物をしてるんです。それを探すのを手伝ってくださいよ。――そしたら私、誰にもこのことは言わないです」
恐怖。
つい先ほどまですました表情だった葛城陽菜の目に浮かぶのは、恐れの色だ。
痺れるような後ろ暗い歓びに、鳩尾が疼く。怯える顔がよく見えるように、ゆっくりとしゃがみこむ。リクルートスーツの動きづらいスカートの裾が乱れるも気にならない。
床に座り込む葛城に視線を合わせる。私は心臓を高鳴らせて、葛城のシャープに切りそろえられた黒髪を軽くつかみ、水あめを舐るように、とろりとろりとねっとりと、葛城陽菜に告げた。
「さぁ、私を採用してください――あなたの秘密を、ばらされたくなかったら」
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