あなたの愛したエンドロール

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 陽菜のオフィスは、1LDKのマンションのLDK(リビングダイニングキッチン)部分だ。本来ならば居間として使われるはずの場所には、所狭しと機材の並んだデスクと、片隅に申し訳程度の応接セットが並べられていた。ソファにローテブル。ただし、どちらもほとんど使われてはいないようで、うっすら埃が積もっている。  奥にある寝室部分だけが葛城の自室らしい。世界的な映像アーティストとしては慎ましい暮らしぶりなのかもしれない。  食事はもっぱら宅配か、食べ忘れるか。洗濯は気が向いたらしている。掃除は――まぁ、見ればわかる。やってない。ぜったいやってない。全体的に埃っぽいし、応接セットはあまり使う機会がなかったのか、ゴミやらに持つやらに埋もれている。 「なるほど……募集してたのは総合アシスタント、もとい葛城監督のメイドさんってとこですか。これはやりがいがありそうです」  葛城陽菜のクリエイティブな仕事ぶりに触れたいという理由で応募した人間だったら激怒するかもしれない。まぁ。本当のことをいうと、採用通知と一緒に送られてきた契約書にでかでかと記されていたのだけれど。  『業務内容は葛城陽菜の制作アシスタントおよび、家事一般、健康管理等の生活アシスタント』――と。制作アシスタントというのは、おそらくはついでのようなものなのだ。そりゃあ、おおっぴらに公開しないシークレット求人にもなるだろう。
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